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私の旅路

 住む場所から離れると不思議と自分が裸になっていくような感覚を覚える。それはきっと自分が社会で生きるために無意識に身につけたいろんなものがリセットされるからだろう。わたしたちのいる世界とまるで価値観の違う世界では、今まで培った知識や経験はまるで役に立たない。そんな世界で生きていけるのかと人は問うだろう。だけど人生は旅だ。見知らぬ土地に行くばかりが旅じゃない。そこで違う価値観を持った人たちと出会うのもまた旅だ。見飽きた世界から見知らぬ世界へ旅立つ私。きっとそこで私は予想だにしていない経験をするだろう。もう二度とこの世界に帰ったこれぬほどに。

 長い旅路の果てに見た風景は今までのどんなものよりも違っていた。世界にこんな所があるのかと思った。世界にこんな人がいるのかと思った。だけどやっぱり私たちは同じ人間だ。形は著しく違うけど血の色は同じだし、何故か日本語だって喋れる。その場所に来た時私はいきなり腕にキスされた。私は衝動的に腕を叩いた。したらそこに潰れて血まみれになった蚊がいた。私はハンカチでそれを追い出そうとした。したら何故か蚊が喋り出したのだ。

「バカヤロウ俺は人間だ!人がせっかくキスして歓待してやったのに人殺しかよ!あ……ああ……意識が遠のいてゆく。さよなら天国でまた会おう」

 私はこの蚊が人間だった事にびっくりした。だけどさらにびっくりしたのは蚊を殺した私の周りを黒すぎる大量の藪蚊が囲っていたことだった。彼らは私に向かってこう叫んだ。

「人殺しの現行犯で逮捕する!この地球人は我らが蚊星人に有り余るほどの歓待を受けながらそれに感謝するどころか我が同胞を殴殺した。ああ!なんて哀れな同胞か!今すぐ処刑してやりたいが、地球人は我々より遥かにでかく処刑には手間がかかるし、地球人がどこかで処刑の事を耳にしたら我らが蚊星は征服されてしまうかもしれない!よって貴様を蚊星から永久に追放する!さぁ出ていけ!」

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