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期間限定の恋 第二話:落ちてゆく二人

「もうどうにもならない。抑えようとしても抑えきれないんだ。これが僕のエゴに過ぎないってのはよくわかっている。それどころか自分はただの性欲の発散のためだと思われてもしょうがない事をしようとしているんだから」

「あなたの気持ちはずっとわかっていたわ。そんなに自分を卑下しないで私だってあなたとおんなじことを考えていたんだから。行きましょ。そして二人で堕ちていきましょ。愛欲の渦へ」

「行こう!やっぱり僕らは今すぐ一つにならなければいけないんだ!」

 そうして男と女は喫茶店を出てすぐそばにあるホテルへと向かった。もういきり立つ男の体の一部はコンパスのようにホテルの方角に向かって激しく起立していた。もう待てない。今すぐここで彼女を押し倒してしまいたいぐらいだ。そんな男に向かって女は言った。

「だけどもしかしたら午後の就業開始時間に遅れてしまうかもしれないわ。だってその時になったら私激しくあなたを求めそうなんだもの」

「ふん、構わないさ。会社には適当に言っとけばいいんだよ。アイツラはバカだから僕らの関係に気づくはずないさ」

「真面目な私にこんな悪いことさせるなんてあなたはなんて罪な人なの?」

「それはこっちのセリフさ」

 そして男と女はホテルへと入った。まず男が先にシャワーを浴び、それから女がシャワールームに行ったのだが、ベッドで女を待っていた男は時計を見て女の言う通り午後の就業には遅れるかもと思った。確かに一時間以内で済ますことは難しい。それどころか午後をまるまるこのホテルで過ごすことになるかもと自分の熱くそそり勃ったコンパスを見て思った。女はそれを予知したのかなかなかシャワールームから出てこない。男を焦らすためなのか。はたまたやはり女の性分でシャワーには無駄に時間をかけるものなのか。男は耐えきれずシャワールームに駆け込んでしまおうと思った。そしてそれを実行しようと立ち上がった瞬間女はバスタオル一枚で男の元に現れた。

 男は肌を晒した女の肢体に唾を飲み込んだ。これが毎夜夢見た女の体なのだ。当然ながら夢よりも遥かに生々しい。早くその体のすべてが見たい。そして君のすべてを僕に捧げてくれ。

「やっとひとつになれるんだね。やっぱり君の言う通り午後の就業には間に合わないね。というかもう就業開始時間は過ぎてしまったよ」

「私をベッドに連れて行って……」

 と女が言葉を終える前に男はすでに彼女を持ち上げていた。そして男は早速ベッドに女を横たえそして言う。

「僕はこうなるのをずっと待っていたんだ。僕は君をす……」


「えっと申し訳ありません!たった今期限時間が来てしまいまして、あの~もう終了なんですよ。わかっていると思いますが、この恋は期間限定の恋でしてもう就業時間が開始したら終わってしまうんです。だからお客さんには大変心苦しいことですが諦めて頂いて次のキャンペーンがありましたらそちらでまた挑戦させていただくたく思いまして。あの~ですね。やはりこういう期間限定のキャンペーンですから突然終わってしまうことにご納得出来ないお客さんもいらっしゃることはこちらも重々承知していますが、でも当方といたしましてもそこをなんとかご理解いただきたく……」

「で、あなたどっから入ってきたの?それに彼女どこ消えたの?」

 男はベッドから突然彼女が消え、その代わりに何故か裸で固定電話機持ってイヤホンつけてるおっさんが現れたのでびっくりしてしまった。部屋を見回しても女の気配すらなくなってしまった。おかしい、今さっきまで彼女は自分の目の前にいたのに!男はおっさんに食ってかかった。

「だから彼女はどこに消えたのかって聞いてんだよ!アンタがさらったのか?おい、不法侵入と誘拐罪で警察に訴えるぞ!」

「お客様には誠に申し訳ありません。重ね重ねお詫び申し上げます。期間限定の恋なので通常なら締め切りで終了なのですが、今回はお詫びとしてスペシャルクーポンを差し上げます。これを次回の期間限定の恋に使えば30分だけ延長できます!もし機会がありましたら是非ご利用お願いします!」

 裸で電話を持ったおっさんはそう男ではなくイヤホンのマイクに向かって謝っていた。男は頭にきておっさんのイヤホンをむしり取りその耳に向かって思いっきり叫んだ。

「おい、訳のわかんねえこと言ってんじゃねえよ!一体お前は何者だんだよ!そして彼女はどこに消えたんだよ!今すぐ答えろ!」

「お客様が今回の期間限定の恋キャンペーンにご納得いかないというお気持ちは重々承知しました。こちらもお客様のご要望を検討する所存であります。こちらとしてもお客様にはサービスのご利用を続けていただきたく思いますので、もし当方のサービスへのご要望などがありましたらお問合せフォームで受け付けておりますので今後ご要望がありましたらそちらへお願いします」

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