見出し画像

ショートストーリー『ラーメン屋健次郎』第一話:健次郎ラーメン屋辞める!

 東京の下町の下町に『ラーメン屋健次郎』なる店がある。この店の主人の下野健次郎は下町生まれの下町育ちの生粋の下町っ子でいつも朝から熱い思いでラーメンを作っていたが、彼の熱意に反して全く客は来なかった。この事態に直情径行の青年健次郎はブチ切れた。

「ふざけんなこのタコ!何でオイラのラーメン誰も食べに来ねえんだよ!」

 健次郎はやけくそになっててやんでえ!とばかりに店をぶち壊そうってしたがその時亡き両親の顔が目に浮かんで手を止めた。

 ああ!ラーメンを愛しすぎてこんちくしょうとラーメンを食べ尽くして倒れた両親。健次郎はそんな両親にせめてまともなラーメンを食べさせてあげたかったという思いから知り合いの伝説の中華男に弟子入りしてラーメン修行を始めたのだ。

 ラーメン修行の数年間直情径行の性格の健次郎は中華男の厳しい指導に耐えられず何度もブチ切れた。やっぱり日本人はそばだと喚いて中華男の店を破壊しようとしたがその時も両親の顔が浮かんできて止めたのだ。そして師匠の中華男に認められて店を持つ事になったのだが、まさか客が誰も入らないとは。

 健次郎はラーメンを食いすぎて死んだ両親の事を考えた。よく考えれば両親はラーメンのせいで死んだのだ。江戸っ子よろしく宵越しの金は持たねえとばかりに先のことを考えず生涯ラーメンを食い続けた両親。ラーメンさえ食わなければこんな事にならなかったのに。健次郎は亡き両親がラーメンをガッツリ食っている場面を思い浮かべながら目の前のどんぶりを見た。チキショウこいつが、こいつがオヤジとおふくろを殺したんだ。健次郎は再びブチ切れてどんぶりを床に叩きつけて叫んだ。

「オイラやっぱりラーメン屋辞めるぜ!」


 




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?