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私が書く理由

 私は時々自分がどうして物を書くのかよくわからなくなることがある。ただ怠惰で書いてるんじゃないかって人から何度も聞かれることがある。しかし自分の心の中に聞いても書く理由なんて本当にわからない。自分はただ頭の中に浮かんだ言葉をただ書き立てているだけだからだ。あらためて自分の執筆活動を振り返ると実に虚しい時間を過ごして来たと後悔する。書く理由もわからずただ適当に並べた言葉で人を喜ばせたり、感動させたり出来るだろうか。いや、出来はしない。そんな者はせいぜい人に含み笑いをもたらすだけだ。これは告白だ。真実の魂からの書くべき理由をわからず書いてきた私の懺悔だ。だから私は今からあっちに行って書く理由を見つけてこようと思う。あっちだったら書く理由を見つける時間はいくらだってあるから……。

 そう書いて作家の駒崎文作は行方不明になった。それから十年後突然出版社に現れるといきなり原稿をどかっとおいた。そして驚く編集者たちに向かって彼は言った。
「これが俺の書きたいものだったんだ。読んでくれ」

 しかし編集者は彼の原稿に誰も手を触れなかった。それは彼の書物を読む気にさえならないとかそういう理由ではない。単に彼の原稿がうんこと蝿の死骸で覆われていてとても手に取れる代物ではなかったからだ。編集者は彼に向かって言った。

「あの、この汚いゴミさっさと持って帰って!」


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