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妊娠…和解 中編

 まさか!毛だらけで全身真っ黒なダーリンを、その生前には決して人間として認めなかった人種差別主義者の父が話し合おうなんて……。ああ!母は身をもって私に示してくれたのです。父のような下劣極まる人種差別主義者だって、心をこめて訴えればちゃんと話を聞いてくれることを! 私と父は母の願い通り、今度はお互いの話を冷静に聞くことを心のなかで誓いあったのでした。

 私は父の顔をまっすぐ見てビックリしました。何と父の顔が酷いことになっていたのです。頬は割れたガラスを顔中に浴びたみたいに切り傷だらけで、そして北斗百裂拳を浴びたみたいに顔中凸凹でした。ああ!我を忘れたとはいえ何て恐ろしい事をしたのでしょうか!人種差別主義者とはいえ実の親なのに……。私はダーリンを愛する自分の想いの余りの深さにぞっとしました。ダーリンが死んでも愛は変わらない!いや、それどころか愛はますます深まっていきます。ああ!愛は人を凶器に変えてしまう!毛だらけで全身真っ黒なダーリンを想う心が人種差別主義者とはいえ、実の親をも殺しかねないものだなんて……。

 父は傷だらけの顔を押さえながらゆっくり話始めました。

「お前が結婚すると言ったとき、俺は正直に喜んだものさ。やっと結婚する気になったとな。どうせお前の事だから相手は背が180cm以上あって、顔は速水もこみちみたいな軽薄極まりない男だと思っていた。だが父親の俺としてはどんなに気に食わない奴であろうがお前のために結婚を認めるつもりでいたんだ。だか!」

 父は切り傷からピュッピュピュッピュと血を吹き出しながら興奮しています。続けて、「相手はあれだった。この野獣だ!」と自分で破いたダーリンの写真を指しながら叫び、続けてこんな戯言まで喚き散らしました。

「一体どうしてこんなのを愛することが出来たんだ!これを初めて連れて来たとき俺は唖然としたぞ!」

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