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陽気な別れ
オーギュスト・ペルタンは今死ぬ準備に取り掛かろうとしていた。彼はぼやけた目で皺だらけになった腕を見て思う。ずいぶん使い込んだモンじゃ。だがもうとっくに期限切れじゃ。修理なんか誰も出来まいじゃろうて。それからオーギュストは自分の元に集まった家族と友人たちに向かって最期の挨拶をした。
「ワシは生まれながらのバリっ子じゃ。パリっ子は最後まで陽気に人生を楽しむものなのじゃ。だからワシは笑って死にたいのじゃ。それで最期にお願いがあるのじゃ。お願いだからワシの渾身の駄洒落を聞いてくれ。今まで面白すぎるから喋ったら自分で笑いすぎて死んじゃうかと思って今まで言わなかったのじゃ。だけどもう臨終じゃ。ワシはこの駄洒落をお前たちへの遺言としたい。では言うぞ。
「フランスパンはパリッとしたのがいいな!」
室内は暗い沈黙に覆われた。皆俯いて黙ってしまった。オーギュストはこの皆の反応に人の最期の駄洒落なんだから笑う真似ぐらいしろと言ってやりたかったが、しかしその時だった。突然家族と友人が笑い出したのだ。「面白すぎる!パパこんなときに卑怯だよ!」「お前は冗談がわからない人間だと思っていたがこんなにも恐ろしいダジャレを隠し持っていたとは!」彼らはこう口々に言いそして心臓を押さえて倒れ込んだ。ああ!なんということだろう!家族と友人はそのままオーギュストのダジャレで即死してしまったのだ。オーギュストはこの家族と友人の死に悲しんだ。もう死ぬどころの騒ぎではなかった。
結局オーギュストはそれから百年後に死んだが、その時彼の縁者や友人は全員死んでいた。
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