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小説指南

「君の小説が何故アクセス数が増えないかわかるかね」

「わかりません。いえ、わかります。それはきっと僕の小説が難しすぎて読者によくわからないせいでしょう。勿論僕も難しい言葉は避けていますが、それでもやはり僕の小説を読むにはある程度の教養を必要とするからです」

「なるほど、では君はストーリー展開についてはどう考えてもいるのだ?」

「こう言っては身も蓋もありませんが、そもそも小説にストーリー展開などそれほど重要でしょうか?あなたも小説の成り立ちを知っているでしょう。小説は物語の批評から始まった事を。セルバンデスが『ドン・キホーテ』でパロディにしたのは当時腐るほど書かれていた騎士道物語でした。彼は騎士物語をパロディにする事によって単純な騎士物語に批評を加えたのです。それが近代ヨーロッパ文学の始まりであり、今日まで続く我々の文学の礎となったのです。18世紀のイギリス文学を見てご覧なさい。スターンのあの驚嘆すべき『トリストラム・シャンティ』など全く物語が展開されていないではありませんか。ハッキリ言って小説の歴史においてストーリーが重視されるようになったのは十九世紀以降でしかありません。だから小説にストーリーなぞ不要とは言わぬものの、特に重要ではないのです。というわけであなたの質問は愚問でしかない。これでどうですか?」

「ふん、若さというのは恐ろしいものだな。君がここまで怖いもの知らずだったとは驚きだよ。では最後の質問だ。あの……君自分の小説が下手くそだって自覚ある?散々偉そうな事言ってるんだけど、君文法いっぱい間違っているから。あとそれと単語の使い方ね。君の小説のアクセス数増えないのそれが原因なんだよね。それとこれもハッキリ言っておくけど君の小説は面白い面白くない以前に文章が壊滅的に下手くそで読めないのよ。君もういっぺん中学からやり直したらどうかね?」

「……あなたの言う文法とは誰が決めたものなのだ。僕は……僕は!」

「……そんなに意地を張らなくていいんだよ。さぁ、私の小説家講座に入りなさい。月謝は普段100万なんだけど今月は初回月サービスで25万にしておくから」

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