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ヘアヌード

「ホントにいいんでしょうか?私、カメラマンやっていてこういうもの撮るの初めてなんですよ。ホントに私なんかが撮って大丈夫なんでしょうか?」
 カメラマンは悲壮な決意をしたようにカメラの前に座っている客にこう最後の確認をとった。
 今、彼の目の前に立っている客は、つい先程突然店に現れるといきなり「ヘアーヌードを撮ってもらいたい」と頭を下げて頼んできたのだ。カメラマンは正直に客に向かって、こういうものを撮ったことがないのでお断りすると言ったのだが、客はそれでも諦めず、お願いですから私を撮ってくださいと食い下がり、さらにこう懇願してきた。
「二度と戻らない青春のすべてを記録に残しておきたいんです。人は忘れやす生き物だから記憶なんて当てにならない。いくら忘れまいと思っていても、絶対に忘れてしまうから」
 この客の言葉にカメラマンの心は動かされた。それで彼は客のヘアヌードを撮ることを承諾すると客を連れて撮影スタジオに連れて行ったのだが、ヘアヌードを撮る前にもう一度客の決意が変わっていないか確かめたかったのである。
 客はカメラマンの問いに目を見開きまっすぐ前を向いて答えた。
「大丈夫です!私後悔なんかしません!」
 カメラマンはそう言った客の表情にただならぬ決意を見て、無言でうなずき静かに撮影の準備をはじめた。

「は~い!もうちょっと髪の毛を引っ張ってくださいね~!でないと毛根が見えないですよ~!は~い恥ずかしがらないでぇ~!おや?ちょっと地肌に油が溜まってちょっとテカってるなあ~!頭がツルツルだから、申し訳ないけどタオルで拭いてもらっていいかな?」
「先生!ダメです!タオルなんかで拭いたらヘアーが完全に抜けちゃいますよ!何のためにここに来たと思ってるんですか!ヘアーが残っているうちにさっさと撮ってくださいよ!」
「でもヘアーヌードを撮ってくれって言ったのはあなたでしょ?毛根が取れなくてもいいんですか?」
「ああ!恥ずかしいから早く撮ってよ先生!」


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