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ヴィジュアル系バンドなんかじゃない!

 先日メジャーデビュー間近の日本唯一のゴスバンドÀ reboursのボーカル兼リーダーのユイスマンス次郎のインタビューを行った。À reboursはインディーズのバンドであるが、海外で積極的にライブ活動を行っており、評価も非常に高かった。特にヨーロッパで評価が高くいくつかのレーベルから契約のオファーもあったぐらいだ。その彼らがとうとうメジャーデビューする。私はリーダーのユイスマンス次郎に何故メジャーデビューすることしたのか聞いてみた。

「やっぱり生活ですかね。僕らいつまでも若くないんだし(笑)って言うのは冗談はやめておいて、まぁ正直にぶっちゃけますけど、今の日本の音楽シーンの低レベルぶりを見ていてずっと前から何とかしなきゃってずっと考えていたんです。だけどメジャーデビューしても僕らのヨーロッパの退廃を受け継いだゴスロックは理解されないと思っていたんです。確実にヴィジュアル系なんかと勘違いされるなって。あの低レベルなヴィジュアル系のファンのバカギャルに僕らのメイクの文学性とか美術性がわかるわけないじゃないですか。ユイスマンスとかバタイユとか言ってもわかんないだろうし、ミュシャとかピアズリーとか言っても全然でしょ?勿論バカギャルは海外のロックなんか少しも聞いてない。ジョイ・ディヴィジョンも聴いてないし、シスターズ・オブ・マーシーも聴いてない。バウハウスとかダンス・ソサエティなんて知るわけもない。だからカッコだけ見て僕らをヴィジュアル系扱いするに決まっているんですよ。だけどどんどん低レベル化してゆく日本の音楽シーンを見ていて、もう僕らが立ち上がらなければいけないと思うようになったんです。ヴィジュアル系と誤解されてもいい。僕らが奏でる本物のゴスロックを聴いて背徳の美に目覚めてくれたらそれでもいいって」

「でもあなたたちの音楽聴いて誰もヴィジュアル系だとおもわないんじゃないかな。確かに格好はヴィジュアル系と誤解されかねないけど音楽性は明らかに違うでしょ?あんなイアン・カーティスかアンドリュー・エルドリッチみたいなバリトンボイスのボーカルのヴィジュアル系バンドなんていないですよ」

「そう僕らの音楽は君があげた偉大なる先人が残してくれた背徳のロックへの多大なるリスペクトを込めていますらね。僕らの音楽はあんな低レベルな女子供向けのヴィジュアル系バンドとはまるっきり似ても似つかないんですよ。だけどヴィジュアル系のファンのバカギャルはとことんバカだから音楽を聴こうとさえしないんです。だから見た目で僕らをヴィジュアル系だと判断するんですよ」

「けど今度ヴィジュアル系のフェスに出ますよね?そんなことしたらますますヴィジュアル系と誤解されませんか?」

「いや、違いを明らかにするためにあえて出演する事にしたんです。そしてこれが一番大事なんですが、僕らがヴィジュアル系のフェスにあえて出演することにしたのは僕らのヨーロッパの退廃を受け継ぐ背徳の美の音楽でバカギャルをまともに更生させてやるためです。彼女たちをバカギャルからヨーロッパ仕込みのゴシックレディに変えてやろうって思ったんです。ああ!今からフェスが待ちきれないですよ。僕らの背徳の音楽でヴィジュアル系を真っ黒に塗り尽くすその日が来るのを!」

 インタビューはこうして終わった。別れる時ユイスマンス次郎はわたに向かって自信満々にこう言った。

「フェスを楽しみにしててください。僕らがゴスロックでヴィジュアル系の息の根を止めて見せますよ」


 さてその当日である。何故か看板にヴィジュアル系の大型新人と書かれていたÀ reboursは出番になると意気揚々と登場して歌いはじめた。

「アアー♪背徳の美があなたの瞳を覆い隠す♫月夜の晩に導かれて黒い薔薇が咲き誇る♫」

「下手くそー!さっさと引っ込めー!」

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