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夫が書いた小説を読んだ

 先日夫から某サイトで小説を書いていたことを聞いた。私はそれを聞いてろくに本も読んでいない夫が小説を書くなんて、どういう風の吹き回しかと思って夫に尋ねたが、彼はお酒を飲みながら妙に自慢げに私に言うではないか。

「小説書いててさ。俺ってひょっとしたら天才じゃないかって思ったね。不思議なくらいどんどん書けるわけだよ。お前もわかっていると思うけど俺は本なんかろくに読まない。ビジネス本ですから読まない。なのにさ、書けてしまうわけだ。ただ書けるっていっても所詮素人だから実際に自分が体験したことしかかけないわけだな。だけど自分で読んでも味わい深いものがあるんだよ。当然お前も小説の中に出した。しかもヒロイン役だぜ。今はお前には読ませられないけどな。でも完成したら読ませて上げるよ」

 私は楽しみに待ってるからと夫に答えたが、私もだいぶお酒を飲んでいたこともあって、しばらくこの話を忘れてしまっていた。だけど昨日突然前に夫が小説を書いていることを話した事を思い出し、急に読みたくなってきた。夫はSNSに小説を載せていると言っていた。私はGoogleで夫がプライベート用のLINEで使っている『マコちんちんちんちんちんちんちん』という最低の名前で検索をかけてみた。すると早速noteのサイト名とともにその名前が出てきたではないか。Googleには夫の最低のハンネと夫が書いているらしき小説が表示されていた。私はドキドキしながらクリックしてnoteを開けた。

 『宿命の人』と題されたその小説は夫そのまんまの男性が主人公でヒロインは私そっくりの女性だった。小説には夫そっくりの主人公は私そのまんまのヒロインにどうやって告白しようかずっと悩んでいる場面が延々と綴られていた。私はあの告白のとき夫はこんな事を考えていたのかと、こそばゆさを感じながら小説を読んだ。読んでいるとあの頃の思い出が蘇ってきて体がなんか熱くなってきた。最初のキス、最初の一夜。今でもハッキリと思い出せる。私はもう夫の私への想いに感動して泣きながら一気に読んだ。

 しかし、である。その連載中の最新回に新しい登場人物が出てきたのだ。その登場人物とは主人公の職場の美人の後輩でなんと主人公はその後輩に惚れてしまうのである。夫はこう書いている。

『とうとう宿命の人に逢ったんだ。今までの恋愛は全て偽りだったんだ。俺はなんであのブサイクな女と結婚したのだろう。あのとき俺は童貞だったから初めての女につまらない幻想を持ってしまったんだ。だが今の俺は違う。俺は今から本気の恋に生きる。全てを捨ててあの子と共に生きるんだ』

 私は早速noteに登録して夫のアイコンの馬鹿面を見ながらスキを十連打ぐらい押して思いっきりコメントをかいてやった。

『ば~かお前なんかにその美人の後輩が寄ってくるわけないじゃないの!何がブサイクよ!自分の姿鏡で見てからものを言え!』




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