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榊原係長が何故モテるのか確かめてみた。

 入社してこの第三営業部で働き始めてからもう半年経った。私はこここでいろんなものを学んだ。勿論慣れない事ばかりで先輩たちに沢山迷惑をかけた。だけどみんな素敵な先輩たちでいいんだよ私がしでかした時は君はまた新人だからとか。私、新人の頃はあなたより遥かに酷かったもの、だから自分に自信を持ってとか言って慰めてくれた。

 その頼りになる先輩たちがいる第三営業部の中に不思議な男性がいる。その人は係長の榊原さんだ。彼は五十歳ぐらいのおぢさんで非常にスマートな感じのする人だ。

 とある日、私がいつものようにやらかして先輩たちに慰められている所に、榊原係長が傍からスッと現れて無言でホットコーヒーを差し出して去って行った。女性の先輩たちは去ってゆく榊原係長の背中を見て榊原さんっていつもかっこいいわねと目をハートマークにしてつぶやいていた。私はその先輩たちの態度に気を取られて榊原係長にコーヒーのお礼をするのを忘れてしまった。

 第三営業部の女性たちはみんな榊原係長に夢中だ。だけど私は不思議に思う。榊原係長は確かにスマートだ。だけどそんなにカッコいいかとも思う。顔も普通。あまり喋らない。確かに親切なところはあるけどそれだけじゃ榊原係長があんなにモテるわけがない。もしかしたらの知らない榊原係長がいるのかもしれない。なんかすっごく気になってきた。ひょっとしたら私も榊原係長を好きになったのかもしれない。ありえねえって突っ込んでもらって結構だけどとにかく急に榊原係長に興味が湧いてきた。もしかしたら榊原さんに恋をしたのかもしれない。えっ、でもありえないでしょ?彼って私のお父さんと同い年ぐらいでしょ?でもなんか不思議と榊原さんに興味が湧いてしまう。一体彼は何故あんなにもモテるのか。

 私はそれから榊原係長の行動を見張った。まるでストーカーみたいだけど止まらない。私は榊原さんという異常にモテる男の謎を追う私立探偵だ。依頼者は私。探偵も私の孤独な仕事だ。いつも通りスマートにオフィスに登場する榊原係長。ミスをした先輩を軽く注意する榊原係長。昼食中にオフの時の表情を見せる榊原さん。みんなひょっとしたらこの榊原さんの佇まいを見ているうちに彼に夢中になったのだろうか。

 だけどそうして毎日榊原係長の尾行をしていたある日、私は彼の見たくもない部分を見てしまった。大人なんだからそんな事なれなきゃって言われても絶対に慣れることが出来ないものを。

 その日、業務が終わって帰るために私は会社のビルから出た所で突然忘れ物に気づいた。それでエレベーターでオフィスのある階についてさてロッカーに行こうとした時、私は途中にある給湯室で男女が話しているのを聞いた。私はもしかしたらプライベートな事を話しているのかな?と思いそのままこっそりと通り過ぎようとしたけど、しかし男性の方が榊原係長で女性の方がいつも仲良くしてもらっている先輩だったので思わず立ち止まってこっそり覗いてしまった。まさか榊原さんと先輩がお付き合い?と思って二人を見ていたらなんと榊原さんがお札を出してきた。私はそれを見てえっとなった。まさかあのモテ男の榊原さんがパパ活なんてするなんて!最低!しかも五千円なんて端金で!きっとこれはパワハラも兼ねているんだ。先輩は榊原係長にお金とパワハラでこんなパパ活なんてせざるをえない状況にまで追い詰められたんだ。先輩は軽蔑丸出しの顔で榊原係長から五千円を受け取って言った。

「ねえ、こんな事もうやめない?あなた自分が虚しくなると思わないの?」

「ふん、嫌だというならお金を受け取らなきゃいいじゃないか。君の代わりは他に沢山いるんだから」

 私はこの最低な会話を聞いて頭にきた。これがあのモテ男の榊原係長の正体だったのね。もう許せない。明日朝イチで相談室に告発してやる!何がモテ男だ!ひと時でもこんなクズ男を好きになりかけた自分が恥ずかしい!私は憤然として二人の前に出ようとしたけど、その続きの会話を聞いてさらに衝撃を受けて動けなかった。

「だからこんな事やめなさいって言ってんの。あなたさ、いくらあなたをよく知らない新人たちに自分がカッコいいアピールしたいからって、私たちベテランにお金渡してサクラみたいに自分をカッコいいとか言わせんの恥ずかしいからもうやめなよ。こんな事やったって惨めなだけだしすぐに正体だってバレるじゃない。私たちもいくら五千円貰っているからってあなたがカッコいいなんて言い続けるの飽きてきたわ。なんだかこのまま自分も人も騙していいのかって思ってさ。だから来週からはなしにしょうよ」

「いや、ダメだ!そんなことされたら俺は崩壊してしまう!お金だったらまだある!なかったら借金でもすればいい!だからこれからも俺がかっこいいと言い続けてくれ!」

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