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知り合いの知り合い

 先日京都に出張に行った時の話である。私は暇ができたのでとある料亭で食事をしようとしたのだが、店の暖簾をくぐって戸を開けたらいきなり店主に勝手に入るなと怒られた。私は予約制であることに気づかなかったと思って店主に、では今から予約は取れますかと聞いたのだが、店主はうちは予約制じゃないと言った。じゃなんで店に入っちゃいけないんだと私が尋ねると、店主は憮然としてこう答えたのだ。

「この店は常連さんの知り合いの連れてきた客しか入れないんや。もしうちの店に入りたいんやったら常連さん連れてこうてきてや」

 なんとプライドの高い店だろう。さすが京都だ。私のような関東ものにはわかりかねる偏屈さだ。しかしせっかく京都に来たんだしこの店に入らずにおめおめと東京に逃げて帰れない。だから私は京都中を駆け回ってこの店の常連客を探すことにした。

 だが常連を探すと言ってもたやすく探せるものではない。京都には知り合いなど一人もいないし、一体どこから手をつけていったらいいだろう。しかし私はひとつ妙案を思いついた。今はSNSの時代だ。SNSに書き込んで情報を集めれば、常連客などたやすく見つかるではないか。私はすぐさまSNSこの店の常連客を探していますと書き込んだ。するとすぐに私常連客です。とレスポンスがあった。私はあっという間に見つかったと喜んでSNSに、ではお店の前で待っていますから一緒に食べましょう。勿論お代は全て自分が払います。と書いて連れを待った。そしていくらもしないうちに連れはやってきた。どうやら私と同い年ぐらいの男だった。男は来るなり、自分も常連に連れられてついこの間始めて入ったんだけど大丈夫なのかと口にしたが、私は一回入ったんだから店主だって顔ぐらい覚えているだろうと言って二人で店に入った。しかし店主のやつは私たちを見るなり常連さんを連れてきてやと断ってきた。何?店で食事をしたことのある人間でもダメなのか。私は連れの男にわざわざ来てくれたのにすまないと謝ると、男の方もお役に立てなくてすまない。と謝ってきて、それからこの人だったらこの店の常連さんだから大丈夫と言って別れ際にその常連のSNSのアカウント名とアドレスを書いたメモを手渡してくれた。

 私は早速男のメモのアカウントを検索して常連にコンタクトをとった。その常連は今近くにいるからすぐ行くと言ってやってきた。しかしその常連を連れてきても店主はアンタじゃダメやもっと本物の常連さんを連れてきてやと言って私たちを追い出した。なんて偏屈極まりない男なのだろうか。私は腹が立ってきたが、常連は私を宥めて多分この人だったら大丈夫。この人は先祖代々平安時代からこの店の客だからと言って店の隣の家に行ってその平安時代からの常連を呼んでくれた。その平安時代からの常連は矍鑠とした老人で京都人には珍しくハッキリした感じの喋り方をする男だった。我々は老人と一緒に店に入ったが、なんと店主のやつは平安時代からの常連まで連れてきた私たちを常連さんを連れてきてやと追い出したではないか。どういうことだ。この店主というのはまさか飛鳥時代からの常連しか認めないというのか。と思っていたら老人が店主に向かって杖をかざしながらこう尋ねていた。

「アンタだれや?店主のやつはどこいったんや」

「ええっと、いろいろ込み入った事情がありまして……。とりあえずざっくり説明すると私は泥棒です。店主さんは奥で寝てます」


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