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国書刊行会についてとりとめもなく語る

 国書刊行会は私の初恋そのものだった。今まで新潮文庫や岩波文庫、その他の文庫や単行本の行儀のいいお話だけが文学だと思っていた私は神田の古本屋でいきなり国書刊行会の洗礼を浴びせられてしまった。国書刊行会は芥川龍之介や太宰治なんかお呼びもつかないほど野蛮だった。国書刊行会を知ってから太宰の「死ぬ気で恋愛しないか」なんてセリフが気恥ずかしくなった。なんて子供だったんだろう。太宰なんて国書刊行会の黒光に朱色のフォントでデザインされた函本の函以下の価値しかないってことに気づいたんだ。恋は否応なしに引きづり込まれてしまうもの。男は常に刃物とバットを隠している。なしくずしに私を無茶苦茶にしてから死なせてほしいなんて危険な想像さえしてしまう。国書刊行会は芥川龍之介や太宰治修のような甘ったれた男じゃない。危険すぎる刹那に生きる本物の男。危険、幻想、異端、狂気、そして愛。

 私は国書刊行会に逢いに行くために毎日志村三丁目の駅に降りる。国書刊行会はそこでいつも激しく危険な姿で立っている。その凛々しく立つ姿を見ているともうひとつフランス、じゃなくてもう一人の危険な私が目覚めだす。ああ!国書刊行会!またあなたを買いに行くわ。買ったらそのカバーを剥いてどこまでもあなたを見つめていたい。インクが滲むほどに、紙が皺くちゃになるほどにいつまでもあなたを触っていたい。

 そんな私の願いが通じたのか、今日国書刊行会からラブレターをもらった。ああ!ありがとう!私たち両思いなのね!

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