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離婚物語

 結婚に物語があれば当然離婚にも物語がある。岡崎夫婦は離婚届を前にして夫婦としての最後の会話をしていた。とはいっても別れる間際の夫婦である。つもる話など何もありはしない。あるとしたら互いへの幻滅だけだ。二人で過ごしてきたこの長すぎる時間は全く無駄な時間であった。時間を返せ。とそんな事を口に出したら互いに罵倒が止まらなくなってしまうだろう。夫の浩介が立ち上がって妻の美貴子に言った。
「じゃあな。コイツは俺が届けてやるよ」
「やるよ?その恩着せがましい言葉はやめた方がいいわよ。あなたのためにもね」
「うるせいな。もう二度と会わねえんだからどうだっていいだろ!」
「こっちだってあんたなんかに二度と会いたくないわよ!あんたがあんな人間だってわかってたら結婚なんてしなかったわよ!」
「けっ、結局最後までそれかよ!こっちは最後ぐらいきれいに別れようって思ってたのによ!」
 浩介は美貴子にこう吐き打てるように言うと離婚届を持って部屋から出て行こうとした。しかし美貴子は浩介を呼び止めた。
「そういえば離婚の理由ちゃんと書いてくれた?」
「なんだあ、離婚届にそんなもの書く欄ねえよ。離婚の種別に丸して終わりだろうが」
「その他欄に空欄があるでしょ。そこに離婚の理由書きなさいよ!」
「書いてどうすんだよ。お前も離婚に同意したんだろうが。もう離婚は決まったんだよ。がたがた抜かすんじゃねえ!」

「何ががたがた抜かすんじゃねえよ!自分の都合の悪いことから逃げるな!お前は自分がへそくりで買ったフィギュアを私に捨てられたから離婚するって言いだしたんだろうか!それをちゃんと書けよ!ハッキリと、詳細に、事細かく書け!」
「うるせい!書きゃいいんだろう!人が必死でへそくりで貯めた金で買ったレアもののフィギュアを捨てられたから離婚する。これでいいか!」
「いいわよこれで!役所であんた一人笑われてきなさいよ!」

 浩介は離婚届を握りしめまっすぐ役所に向った。そして整理券をもらいやがて自分が呼ばれるとさっと立ち上がって担当の者に離婚届を突き出した。

「離婚届です。内容を読めばわかるように完全な性格の不一致です。さっさと離婚の手続きしてください。あんな女と法的にさっさと切れたいんですよ!」




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