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サクラ咲く

 出会い系サイトにはサクラがつきものだ。だが手頃な性欲処理したいものや、切実に交際を求めるものはそんな事はわかっていながらもただ一分の奇跡を信じて特攻隊のように女へと突撃する。今日もまた一人の青年が修正バリバリの美女に誘いをかけた。

『僕とお話ししてくれませんか』

 と、青年はとりあえず言葉を投げた。どうせサクラだろうと思いながら。するといくらもしないうちに返事が返ってくる。

『初めましてサクラです。私もお話がしたいです』

 女の返事を見た青年は冷笑を浮かべた。名前の通りどう考えてもサクラ。どうせ課金に誘導して終わりだろうと思ったが、とりあえずは女に付き合ってみることにした。彼はいろいろ書き、女も返事を送って来だがそのメッセージの内容はどう考えてもサクラのものではなかった。女は自分が醜くて誰にも愛されないと訴え、だけどもしかしたら自分を受け入れてくれる人が居るかもと信じて、この出会い系サイトに登録したという。女はたしかにこの写真は作り物であるが私はちゃんとした女だと書いていた。

 女のメッセージを青年はすぐさま自分も仮の写真を使っていた。本当の僕はニキビヅラの気持ちの悪い男だ。だけどそんな僕でもいいのなら今すぐ君に逢いたい。と書いた。するとすぐに女から涙だらけの絵文字のメッセージがくる。文末に何故か蜘蛛の絵文字がありその隣にハートがあったが、きっとこれはなんかのサインなのだろう。女は某公園のサクラの下であなたに逢いたいと書いてきた。だけど……と女は続けて書いた。

『だけど、あなたは本当に私を見ても逃げない?みんないつも私を見て逃げるから……』

『逃げないさ。君がどんな人間であろうが僕は君から逃げるはずがない』

『でも、私人間じゃないかもしれないよ』

 と女は書いて来た。青年はその女のジョークを鼻で笑った。


 青年は公園のサクラの木の下で女を待っていた。彼女はどんな人なのか。自分で言っているのだからものすごく醜いのだろう。だけどもしかして彼女がものすごく自分を卑下していたとしたら……。とここまで考えて彼はかぶりを振った。いや、彼女がどんな人でも僕は彼女を愛するつもりだ。たとえ彼女が人間じゃなくてもと考えて笑った時、突然女性の声が聞こえた。

「お待たせ〜、サクラでーす。今日私思いっきりおめかしして糸沢山使って来たの。見て!」

 青年は慌てて周りを見渡したがそこには誰もいない。木の後ろにも人はいなかった。

「どこにいるんだ!隠れてないで出ておいで!」

「何言ってるのよ。私ここにいるじゃない」

 女が再びこう言った瞬間目の前にいた蜘蛛が彼の頭に引っ付いてきた。

「私よ!蜘蛛のサクラ!私ずっとあなたのような人を待ってたの。ねぇ、私あなたのために昨日頑張って蜘蛛の巣作りまくったのよ。あなたを巻き巻きして気持ちよくさせてあげるから一緒に行こ!」

 青年はぎゃあああああーッと絶叫して蜘蛛を叩き落とすとそのまま泣いて去った。蜘蛛のサクラはサクラ散る地べたに叩きつけられたショックで死んだ。






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