ノッポのドイツ人はなぜ手袋をしているか
ハイキング中のドイツ人が異様に厚ぼったい手袋をしていた。登山ならともかくただのハイキングである。しかも今の時期は暖かく手袋なんか必要はない。その証拠に彼の周りのハイキング逆に手袋をはめている人間は一人もいない。私はこのドイツ人がなぜなら今の時期にそんな厚ぼったい手袋なんかはめているのか気になってNOVAで三日間きっちり学んだドイツ語で彼に質問したのである。
他国の人間にこんな不躾な質問をするのはおもてなし国家日本国民に有るまじきことだとはわかっているが、好奇心には勝てない。なので私は思いっきり遠慮を捨ててダイレクトに手袋について聞いたのだが、彼は私の問いに撫然とした顔で俯いて黙り込んだ。
ミヒャエル・レンツというドイツ人はドイツのユーモアについて書いた『ドイツ人のバカ笑い』という著作の冒頭で世界一薄い本はドイツの二千年のユーモア史だとジョークを飛ばしている。彼のこのようにのっけからジョークをかますことで外国人の抱くステレオタイプなドイツ人像に異を唱え、その反証としてドイツがちゃんとユーモアを持った人間であることをアピールするために数々のドイツジョークを例証としてあげているわけだが、私はこの本に書かれた素晴らしきドイツジョークを読んで寒気とともにやはり外国人の抱くドイツ人のイメージは正しい事を確認したのだった。このバカなジャップの不躾な質問も他国の人間だったらアメリカ人はバカなアメリカンジョークで答え、イギリス人は絶妙なユーモアで答え、フランス人は当意即妙のエスプリで答えるであろう。だが真面目すぎるカントからヘーゲルやらゲーテやらシラーやらベートーヴェンやらワーグナーやらの哲学や芸術を愛する真面目ゲルマン人はジョークで流すことが出来ずに真面目に考え込んでしまうのだ。
このハイキング中のドイツ人もまたどう答えたらいいか頭を抱えて苦悩していた。しかし彼は徐にポケットからスマホを取り出してなにやら操作し始めた。そして私にスマホを突き出した。そこにはドイツ語版のWikipediaが写っており、アカギレとしもやけの原因の部分の解説が表示されていた。
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