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未来を生きる男

 冴木未来はその名のように常に未来を見ている男であった。彼と同じ会社に同期で入った僕らのような凡庸な人間にとって彼こそ未来そのものであり、光り輝く太陽であった。僕らは彼からいつも未来へのビジョンを聞かされたものだ。世界はこれからドラスティックな変化を遂げるだろう。その次なる時代を生きるためには我々自身が変化しなければいけない。いつまでもこのままでいたいなんて甘えだ。未来は常に変化し新たなる世界を提示している。だから俺はその未来ってやつに真っ先に飛び込みたいのさ。

 冴木は一年前に突然会社を辞めた。その事を知った僕らは驚きすぐさま彼に会ったが、冴木は僕らを前にして覚悟を決めた顔でこう言った。

「正直に言って俺はこの会社には未来はないと思う。いや、この日本にはもう未来はない。だから俺は究極の未来を求めて世界へ旅立つ事にしたんだ。この道は確かに険しい。だが未来ってやつは楽して手に入れられるものじゃない。きっと俺はさまざまな体験をするだろう。ひょっとしたら昔の俺とは全然違う人間になっているかもしれない。だがこれは未来を手に入れるために必要な変化なんだ。だから俺は行くよ。未来を手に入れるための旅へ」

 そう言って冴木未来は未来へと旅立った。そして一年後の今日未来へ旅立った冴木未来から連絡があった。今宇宙センターにいるからすぐに逢いにこいと言う。僕らは言われた通り宇宙センターに行き冴木未来はいるかと聞いたら、係員はあの宇宙人の知り合いかと意味不明な事を言っていた。僕らは首を捻りながら係員について行き、牢屋みたいなところに立たされた。係員は僕らに向かって言った。

「昨日この宇宙人を捕獲したんだけど、何故か地球の言葉を知っていてアンタらを呼んでくれってずっと言ってんのよ。だからスマホ貸したらこいつ器用に使うわ使うわ。アンタらこの宇宙人飼ってた?」

 僕らは目の前の頭のやたらでかい真っ白のちっこい化け物を見て冴木未来の数々の言葉を思い出しながらが化け物を指差して叫んだ。

「お前、未来に行きすぎだろ!」

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