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三太郎の生き方

 さて、とにかく人間というものは全く意味不明な生物で、動物のようにわかりやすくないのが憎らしい。コミュニケーションひとつとっても動物だったら頬をすり合わせればすぐにコミュニケーションは成立するが、人間の男が女にそんな事をやったら大惨事になるだろう。三太郎は社会人になっても他人とのコミュニケーションというものがまるで理解できなかった。ずっと引きこもりであった彼にとっては挨拶する事さえ一大事だった。他人からおはようございます。と言われても彼はウホとしか返す事が出来ない。発情期になったら隣の富子さんをウホと言いながら犯そうとする。そして富子さんが彼を蹴り飛ばすと三太郎はウホウホと喚きながら両手で胸をドンドン叩く。彼が人間になったのは先月のことであった。個人で飼っていたゴリラがある朝突然人間に進化していた。飼い主は自分のペットがいきなり人間になってしまったのを見て慌てて彼を養子にして三太郎と名付けた。しかし三太郎は人間になってしまったとはいえ教育など全く受けていないのでひたすらウホウホと吠えるのみだった。知能は人間並みにあるのに人間を知らないせいで何も反応ができない。彼はウホと自分の義理の両親にもっとまともな教育をしてくれたらよかったのにと恨んだ。しかし恨んでもどうしようもない。彼は時折り落ちる夕日を見てはアフリカのサバンナを思い出し、ウホウホと胸を叩いてこう思うのだった。

「早くゴリラに戻りたい」


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