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出会い系in文豪

 あの世のナボコフは寂しかった。人生を終えてあの世に来てから毎日退屈な時間を過ごしていた。当然死んでしまったので彼には寿命はない。ということはこのまま永遠に孤独な日々を送らなければならないのか。彼はこれから自分に待っている永遠の時間を想像してゾッとした。このままずっと一人で過ごすなんて嫌だ。そう思った彼はあの世にもある出会い系サイトに登録した。勿論彼は文学者であったからそこら辺のポーシュロスチ的なアンポンタンと会話する気にもなれなかったので死亡文学者専門のサイトに登録することにしたのだ。

 そして出会いを求めていろんな文学者にアタックしたのだが、生前のいろんな作家へのdisりぶりが響いて皆彼を避けてしまった。ナボコフはあれはただの若気の至り、死んでやっと自分の過ちに気づいたと色んな人に釈明したが、それでもみんな彼を不審がって彼が声をかけるとみなごめん遊ばせと逃げてしまうのだった。

 しかしそんな彼にとうとうチャンスが訪れた。死んでからすっかり温和になった彼は今までdisっていた大半の作家を受け入れることになった。彼は女性作家を一部の作家を除いて女の書くものは読めたものではないとバカにしていたが、死んで出会い系サイトに入ってからは女性にも、いや女性こそが本物の文学を書けるのだとすっかり改心し、美人の女性作家に積極的にアプローチしていたが、その中に自分と同じロシア系の作家の美しい女性を発見したのだった。しかし名はよく知らない。彼より百年以上前に生まれたこの女性作家はラスコリーニスカヤと名乗っていた。彼はその名前を聞いて彼の未だに大嫌いな作家の主人公を思い出して一瞬身の毛のよだつものを感じたが、しかしアイコンのニンフェットを思わせる美貌にたちまちのうちに夢中になってしまった。

 そして二人はデートの約束をしてあったのだが、二人は会うなりつかみ合いの大げんかとなってしまった。なんとラスコリーニスカヤは女のふりをしたドストエフスキーだったからである。ナボコフはなんか悪い予感がすると思っていたらやっぱりだったぜ!なんでお前女のフリして出会い系に登録してんだよ!とドストエフスキーを罵り、ドストエフスキーもまたうるせいな!俺だって女の子と付き合いたかったんだよ!なのになんで女の子じゃなくててめえみたいなハゲが来るんだよ!畜生!てめえの爺さんに監獄に閉じ込められた恨み忘れてねえぞ!このやろ生きていた時散々俺をdisりやがって殺してやる!嗚呼!二人の喧嘩は到底終わりそうになかった。二人の喧嘩は徐々に子供の喧嘩とかしていってこの世じゃ俺のほうが人気だとか、お前の本読むやつみんなバカとか罵りそれから二人は時のない空間で延々と罵り合っていた。



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