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ブックガイド

 私は本の水先案内人でもある。赤ちゃんの頃から本をしゃぶってきた私は自慢でもなんでもなく世界一本を知っている人間だ。ハードカバーはカツレツの衣のようなもので、ソフトカバーはパンの皮のようなものだ。そして中を開けばそこには仄かな香りの漂う白米やパンの生地を思わせるページが何枚も盛られている。そしてそこにはインクのスパイスが黒く色を添えているのだ。皆さんは本はやっぱり新品がいいと思うかもしれない。しかし一日おいたカレーが一番美味しいように本物古本が一番美味しいのだ。灼けた本はまるで十年もののワインのように鈍い光を放っている。私は古本屋で年代物の本を買ってはうちでバラバラにして食べている。時々古本屋が売る本間違えた代金は返すから早く本返してくれと言っても私はそんなことは聞きはしない。ただもうこの本は私のものだ。あなたなんかに食べさせたりしないと彼の前でパクツイてやる。彼はなんて事をと泡を吹いて倒れてしまったが、私はそんな彼を見て彼にも食べさせてあげればよかったとちょっぴり彼を哀れに思うぐらいだ。人はよく私を指差して前世はヤギだったのだろうかと言うが、それは間違っている。私は前世がヤギだったわけではなく、ついこの間までヤギだったのだ。私はヤギから進化したヤギ人間なのだ。だから職場の紙を食い荒らすのも、書店の雑誌コーナーの紙を食い荒らすのも、全て許して欲しい。

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