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【エッセイ】自分らしさに殺される前夜

究極の自分らしさは自分自身を破壊してしまうだろう。そんなものあるのか知らないけど

そいつに会うのが怖くて時間をずらしたり、その人に会いたくて時間を合わせたり。結果において成功し、失敗するのは過程において。

この世に直線は存在しないと知ったとき覚えた感動。理想とか美とか永遠とか、そういったものを思いついた人間の感動のどこかにもきっと隠れていた。

「見つけたよここにいたんだねと言ったとき、私のことも見つけてほしい。わがまま言ってごめんって言うのはわがままじゃなかったらいいな」

からだのどんな部分だって、そこによく意識を澄ましてみれば痛みがあるような気がしてくる。いやあるんだろう。あるにちがいない。すくなくともその影はあって、その影に意識を研ぎ澄ますほど迫ってくる――

無感覚をさかのぼっていくと痛みに、痛みをさかのぼっていくと無感覚にまるで昼と夜の逆転みたいに通じているとして、
そのどこかにきっと安らえる場所があるのだろう
そう信じることが、痛みを感じることなのだろうと信じている

この逃避行のどこかに絶対に出くわしてはいけないなにかがいる
それが何なのかわからないけれどそれがいる
そいつからは逃げられない
痛みから逃げているのであって、そいつから逃げているわけではないから
そいつは私を追ってなどいない
こちらが動いて、そいつも動いているだけ
そいつからは逃げられない

スニーカーが足にぴたりとなじむ束の間の。
あとはくたびれていくだけで。
果物が熟し甘味の極まる瞬間の。
あとは傷んで腐っていくだけで
生きるとはそんな瞬間を未来に持ち続けることで
ふり返ってもそんな瞬間が見つからないことに
ふと見守られているような気がした

遠回りした痛みが、なつかしい場所に戻ってくるとき
「見つけた」と思い嬉しくなる
変わらないな君も
生きている

からだの奥深くから漂ってくるにおいを思いがけなく嗅いだとき、
どうしていつも死を想うのだろう


読んでくれて、ありがとう。

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