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小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #2

(前回まではこちら)

二回ナックルキャバ嬢の憂鬱 #2


8月の日曜日、昼営業のアフターでハマスタに行った。
しかもカープ戦。

お客さんは40代後半のTさん。
わたしには「30代の時にIT系の会社を立ち上げた」と話している。
でも、お店の別のコのお客さんから伝え聞いた話では、実家が地主なので遊んでても暮らせる不動産収入があるらしい。
お店では野球に興味ない素振りだけど、暑くなってきたし「一緒にビール飲みたいな〜」とか言えばこっちのもの。

席は内野指定Sの最前列。ちょうど一塁側のカメラ席の上。わたしにすれば三塁側のカープベンチが見えるから逆にいい。
でもね、ここって左バッターが打席に立つときにテレビカメラに抜かれる。ゴウ君のホームランの時なんて何度リプレイされるかわからない。
抜かれるの知ってて座る目立ちたがり屋もいる。
買ってくれたキャップ、深めに被ろう。

ここから見るレフトスタンドは真っ赤に染まってとても綺麗。はたしてこの中のどれくらいの人が広島の人なんだろう?

わたしが上京して2年目の2016年からカープはリーグ3連覇中。カープ女子って言葉もできたほどファンが増えた。もちろんその中には流行りに乗っかってるだけの人もいるけど、カープファンが増えることは純粋に嬉しい。
この赤い色はわたしに元気をくれる。

野球好きのおじさんはすぐ解説をしたがる。

1アウト3塁。ランナーはプーさん。
バッターは大和。
するとTさんはわたしに言う。「外野が前の方に来てるだろ。もしバッターの大和がライトにフライを打ったら、タッチアップって言ってライトが取った瞬間に3塁ランナーが走るから見ててごらん」

大きく飛ばせば犠牲フライにはOKだけど、ライトの誠也が思ったより前に来てるのは方が強く刺せる自信があるから。内野はあまり前の方に来ていない。これなら叩きつける打球でたいていホームに還れるんだけど、プーさんの脚が遅いのもあって守備位置を変えていないとみえる。
さぁ大和どうするかな?
會澤さんと亜蓮君のバッテリーは外角と内角の際どいところを交互につく配球。どっちに打っても引っかけさせて内野ゴロにしたい狙いかもね。

そして2-2からの5球目、會澤さんは内角の下目にミットを構えたけど、ボールは落ち切らずに内に入ってきた。そしたら大和がくるっと身体を回転させながら出したバットはボールに当たるとキレイな弧を描いてレフト前にポトリ。
大和様お得意の内角打ち!プーさんも余裕のホームイン!
Tさん予想のタッチアップじゃなかったけど、大和技ありのタイムリーが出て、Tさんも思わず席を立ち上がって喜ぶ。

ベイスターズの攻撃が終わったところで
「ビール飲むかい?」
そう言われ、わたしはちょうど近くを歩いていた「ベイスターズ・ラガー」の黄色いユニフォームの売り子ちゃんを指さした。

ハマスタのビールっておいしい!
ベイスターズは球団オリジナルのクラフトビールを作ってる。
大手メーカーのビールだと売上の何割かをメーカーに取られてしまうから、それなら自前でビールを作っちゃえばいいって話。おー確かに。
そうしてできたのが「ベイスターズ・ラガー」と「ベイスターズ・エール」。
ビールのコンテストで受賞もしてるくらいお墨付きの味。エールの方がフルーティーで女性向けに作ったんだろうけど、わたしは心地いい苦味のあるラガー派。
ウチのお店にもあったらいいのに。

そういうお客さん目線もあって、さらに商売っ気もあるベイスターズが好きだ。
もしかしたら、学校出てそのまま看護師になっていたら、そういう部分って気づかなかったかもしれない。キャバ嬢をやっているからそういう視点で見ることができているのかも。

もちろんカープだって市民球場なので頑張っている。グッズのバリエーションの多さじゃ負けてないから!カープチューハイもおいしい!

試合はもう九回。
マウンドは国吉。背も高いしイケメンだし育成上がりの苦労人だから好きなんだけどね。
でも連続フォアボールとヒットで2アウト満塁のピンチに。あーん今までの国吉・・・。案の定、曽根君にストレートを弾き返されて2点タイムリー。このパターン、何度目?

でも、最後に細川君が代打で出てガツンとホームランを打ってくれた。
ハマのセイヤ、期待するなぁ。

結局ベイスターズは負けてカープはカッチカチ。
わたし的には勝敗関係なくビールもおいしく飲めていい試合だった。

でも、わたしのハマスタの居場所はここじゃないーー。

(#3に続く)


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