夏島 京

小説はじめてみました。横浜在住。

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  • 小説|8番ゲートのファン達

    「だから私はスタジアムに足を運ぶ。」それぞれの生活や人生の途中で気づけばこの場所にたどり着いた、十人十色の野球ファン達を描いたオムニバス形式の小説。

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小説|8番ゲートのファン達|三回「琥珀色の沼の住人」 #4

(前回まではこちら) 三回|琥珀色の沼の住人 #4 最後にやることは決まっている。 八回裏の販売終了とともにミズキのビール樽に残っているビールを全部買う。 アイドル現場の「鍵閉め」ならぬ売り子の「樽閉め」だ。ミズキにも、最後に俺のところへ来るように言ってある。 俺は31通路から席に戻ると仲間のひとりが俺に言った。 「向こうにすごいのいたぞ」 奴が指さした方のはライトスタンドのもう一つの通路である30通路の方、そこに俺のようにカップを大量に積み上げてる男がいたというのだ

    • 小説|8番ゲートのファン達|三回「琥珀色の沼の住人」 #3

      (前回まではこちら) 三回|琥珀色の沼の住人 #3 こうしてズブズブと俺は売り子沼の住人、いわゆる「売り子厨」となった。 席もシーズンシートを買っていつも同じ場所に俺がいるようにした。彼女たちにとってもその方が来やすい。また外野席の上段は常連濃度が高いので知り合いも増え、俺はライトスタンドの一角で有名になった。 悪評で有名なのは自分でもわかっている。いつも売り子にせっせと貢いでいる様子を見て「あいつまたやってるぜ」って笑ってんだろう。 誤解しないでもらいたいが試合や野球

      • 小説|8番ゲートのファン達|三回「琥珀色の沼の住人」 #2

        (前回まではこちら) 三回|琥珀色の沼の住人 #2 最初のうちはそこそこテレビにも出ていて名の知られたメジャーなグループを追っていた。 しかしある時、結成したての「キャンディープリズム」というグループを知った。 キャンディープリズムは15〜19歳までの6人組。名前の通りキャンディーの味担当があってその中の18歳、メロン味担当のRihoにのめり込んだ。 「キャンディープリズム」略して「キャンプリ」。現場に行くことは「キャンプ行く」だ。 CDリリースといってもインディーズ

        • 小説|8番ゲートのファン達|三回「琥珀色の沼の住人」 #1

          三回|琥珀色の沼の住人 #1 「全部ちょうだい!全部!!」 ヤバい、最高の展開だ! 今日はヤクルト戦、今永ーライアン小川のエース対決。 しかし今永が四回に山田に2ランを打たれると、七回には代わった須田が連打を食らい3失点。 一方ベイスターズはスコアボードを見ると七回まででたった2安打。八回裏を迎えて5-0。 今日は負け負け、しょっぱい試合だ。そう思っていると、倉本がタイムリーで1点返し、続くクワが粘って四球を選んで満塁になった。 割れんばかりの大声援で迎えられた梶谷

        小説|8番ゲートのファン達|三回「琥珀色の沼の住人」 #4

        • 小説|8番ゲートのファン達|三回「琥珀色の沼の住人」 #3

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        • 小説|8番ゲートのファン達|三回「琥珀色の沼の住人」 #1

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        • 小説|8番ゲートのファン達
          12本

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          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #4

          (前回まではこちら) 二回|ナックルキャバ嬢の憂鬱 #4 わたしの胸がざわついた。 これはスピードガンコンテスト。 ナックルを投げてどうするの。 でも、投げたって誰にもわからない。それなら投げてみたいーー。 試合当日まであと10日。 自宅のある南太田の駅から5分ほどのところに大きな公園がある。 そこでわたしはサキ相手にキャッチボールを始めた。グローブとボールは広島から上京したときに持ってきたもの。 東京で頑張ろうと決意した、わたしのお守り。 まずは肩慣らしに普通にキ

          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #4

          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #3

          (前回まではこちら) 二回|ナックルキャバ嬢の憂鬱 #3 わたしは、横浜公園の噴水を横目にしながら8ゲートから入るライトスタンドが好き。 お客さんと行く場合は内野のお高い席。 この外野席でビール 飲みながら観戦するひとときが、何も考えずに一人を満喫できる空間。 またコンタクトじゃなく眼鏡をかけているから、もしお客さんや知り合いがいてもたぶん気づかれない。 それにしても外野席って上の方になると常連濃度が濃くなる。試合中でもあちこち移動しては話しているし、試合ちゃんと見ろ

          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #3

          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #2

          (前回まではこちら) 二回|ナックルキャバ嬢の憂鬱 #2 8月の日曜日、昼営業のアフターでハマスタに行った。 しかもカープ戦。 お客さんは40代後半のTさん。 わたしには「30代の時にIT系の会社を立ち上げた」と話している。 でも、お店の別のコのお客さんから伝え聞いた話では、実家が地主なので遊んでても暮らせる不動産収入があるらしい。 お店では野球に興味ない素振りだけど、暑くなってきたし「一緒にビール飲みたいな〜」とか言えばこっちのもの。 席は内野指定Sの最前列。ちょう

          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #2

          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #1

          二回|ナックルキャバ嬢の憂鬱 #1 わたしは地元広島の高校を卒業し、上京して都内の看護専門学校に通った。看護の専門はだいたい3年。遊ぶお金はそんなになかったけど、都会の生活は刺激があって楽しかった。 3年生の夏、赤羽でナンパしてきた男と付き合った。 2歳年上のホスト崩れ。ダメ男はわかっていたけど、当時のわたしには行き当たりばったりの彼と一緒にいる時間がキラキラして楽しかった。 そして、絵に描いたようにお金だけ取られて消えた。 わたしには借金が残り、池袋のキャバクラでバイ

          小説|8番ゲートのファン達|二回「ナックルキャバ嬢の憂鬱」 #1

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #4

          (前回まではこちら) 一回| プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #4 9月半ば現在のベイスターズは4位。 ポストシーズンであるクライマックスシリーズ(CS)に出場できる3位以上に入れるかは微妙な位置。もし3位で滑り込んだとしても、CS開催は上位チームの本拠地で行うためハマスタで行う可能性は低い。 このままいけば9月3週目の週末が今シーズンのハマスタの最後だ。 僕は来年はまだ3年生なので観戦を考慮したスケジュールは立てられる。しかし、彼女の生活環境が変われば来年も会え

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #4

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #3

          (前回まではこちら) 一回| プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #3 また会えるかな?いや、また会いたい。 一週間経ってもその気持ちは消えなかった。 いつもあの場所で観ているのだろうか?たまたまあの席だったんだろうか? とりあえずハマスタに行かなきゃ始まらない。 隣でなくたっていい。 もう一度金券ショップに行ってもあの辺りの席のチケットがあるとは限らない。 やはりチケット争奪戦に参加するしかない。 これから発売するチケットは1か月先の8月の試合だ。 発売日になり

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #3

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #2

          (前回まではこちら) プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #2 えっと、8段目のーー。 チケットに書かれた席番をみつけて座る。 フィールドが近くて見やすい席だ。 続々とユニフォームに身を包んだファンが少しずつ席を埋めていく。 その多くが、僕のように席を探す素振りもなく、まるで教室の席であるかのようにスムーズに座っていく。つまりほとんど常連だ。 ユニフォームを着ていない自分がニワカファンっぽくて恥ずかしい気になるが、実際その通りだ。 再び視線をフィールドに向けると、一

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #2

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #1

          一回 プロ野球のある街、ライトスタンドの君 #1 野球に興味なんてなかった。 そんな僕が、この夏、横浜スタジアムに通った。 ******** 2018年現在、僕は京浜急行の金沢八景にある私大に通っている2年生だ。 地元長野の県立高校を出て、本当は東京の大学に行きたかったが都内の本命に落ちたので滑り止めのこの大学に通うことにした。 それまで横浜に来たことは一度もなかったが、東京の隣の大都市だし、みなとみらいのようななイメージがあった。 知っての通り、長野にはプロ野球チ

          小説|8番ゲートのファン達|一回「プロ野球のある街、ライトスタンドの君」 #1