見出し画像

【世界蒐集】5日目、台風の詩

5日目。
朝が来ても、寝静まったような暗さの街はとても居心地が良かった。夜が好きなんだな。
夜ご飯は焼肉。自分で自分のご機嫌をとっていこう。金曜日の夜の無敵感は何にも代え難い。


季節が変わる頃には、雨がよく降るらしい。

彼女は今日、この街を抱いて眠ることにした。薄暗い産屋の中で、街は寝静まる。

いつまでも起きていては駄目。電気を消して。

灯火管制。

窓の外には鯨が泳ぐ。

幻と知りながらも手を伸ばす。

銀色の巨大な鰭を、目の前で翻しながら泳いでいく後ろ姿が、瞼の向こうに浮かぶだけ。

駅の天井を見上げたら、水族館の魚になったような気分がした。

空気は澄んでいて、汚れた何かを清めるように青い霧を吸い込む。

浮かぶ水滴に飲まれたのなら、私は永遠の命を生きられただろうか。


-台風の詩-


海の底に沈んだような水族館が好きなのは、名前に海を持って生まれてきたから?

いいなと思ったら応援しよう!