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社会問題としての小論文教育

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小論文教育の重要性と問題性について論じた研究ノートの内容です。ご興味がございましたら、ご覧下さい。
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記事一覧

#71 社会問題としての小論文教育⓪

#71 社会問題としての小論文教育⓪

 読者の皆様、はじめまして!「AO教師」名義でnoteに投稿をしている30代の国語教師です。1度教師の職を辞し、予備校にも勤めてきました。小論文の指導をメインストリームに働いてきて早10年……。

 今日から「社会問題としての小論文教育」と題して、昔執筆した研究ノートの内容を投稿します。小論文の指導内容と教育環境を巡る問題はもはや「日本社会に広がる解決すべき課題」の1つです。その一端をnoteを

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#72 社会問題としての小論文教育①

#72 社会問題としての小論文教育①

 今日は「小論文」というジャンルに内在する原理的な困難さについてお話しします。意外と知られていない、もしくは認識されていない問題性についての話です。実際の学校現場を想像しながらお読みください。

(1)小論文には「試験範囲」が存在しない。 小論文には出題者(大学)や課題(文)によって、それぞれに「傾向」はあるかもしれません。が、高校教育で実施される試験のような「どこからどこまでが出題される」といっ

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#73 社会問題としての小論文教育②

#73 社会問題としての小論文教育②

 今日は小論文教育においてはかなり〈ベタ〉なお話をします。「小論文」と「作文」との違いです。読者の皆様も「作文」は書いてきたはずです。もしかしたら「小論文」も書いたことがある、という人もいるかもしれません。しかし、経験しようとしまいと、2つの〈違い〉を明確に理解している人は少ないと思います。実は学校の先生たちも(国語の先生も含めて)この〈違い〉を明確に言語化できる人は少ないです。

 なぜ言語化

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#74 社会問題としての小論文教育③

#74 社会問題としての小論文教育③

 今日は学校現場において求めらる「小論文の指導」のイメージについて、少しお話しします。小論文の指導は、本来であれば小論文の書き方と書く内容についての指導を指します。しかし、現代、多くの学校現場で求められるのは「志望理由書の指導」です。

 当然ながら「小論文」と「志望理由書」は異なるものです。サッカーとバスケットボールくらい違います。しかし、学校の先生の多くは不思議にも「小論文の指導」と「志望理

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#75 社会問題としての小論文教育④

#75 社会問題としての小論文教育④

 今日は「小論文」という言葉の「小」という文字が秘めている具体的な意味内容を解説したいと思います。作文と小論文の違いが意外とわかりにくいことと同様、論文と小論文の違いも意外とわかりにくいものです。よく「小論文は論文のミニチュア版」といったイメージを持っている人がいますが、その理解の仕方は明らかな誤りです。

 大学で書くのは論文。高校で書くのが小論文。このように綺麗な区分はできません。論文と小論

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#76 社会問題としての小論文教育⑤

#76 社会問題としての小論文教育⑤

 今日は小論文の「評価方法」についてお話しします。最近では予備校や出版社で小論文模試が実施され、そこでは何点といった形で明確に点数化されています。しかし、一方で小論文は偏差値換算されることがありません。

 正確に言うと、偏差値では計ることのできない資質(知識・知性・感性)を計ることを目的として導入されているのが小論文です。だから、数値化できないのは当然のことです。小論文の評価は思いのほか難しい

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#77 社会問題としての小論文教育⑥

#77 社会問題としての小論文教育⑥

 今日は小論文を構成する「観点」(いわば材料みたいなもの)についてお話しします。カレーライスを作る時には、ニンジン・ジャガイモ・タマネギ・肉・カレールー・米といったように様々な材料が必要です。では、小論文に必要な材料とは何でしょうか?

 おそらく明確に言語化できる人は少ないと思います。ちなみに受験の小論文には「時間制限」と「字数制限」があります。もしカレーライスを作ったことのない子どもに、時間

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#78 社会問題としての小論文教育⑦

#78 社会問題としての小論文教育⑦

 今日は小論文が普及した歴史について簡単にお話しします。おそらく読者の皆様は(とりあえずここでは30代以上の大人を想定しています)、高校生の頃は小論文を授業で経験していない方も多いはずです。少なくとも私は経験していません。しかし、現在では多くの高校生が何らかの形で小論文を書いています。

 それはなぜか? 答えは時代が変わったからです。では、どう変わったのか? それを今日はお話しします。

 

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#79 社会問題としての小論文教育⑧

#79 社会問題としての小論文教育⑧

 今日は小論文を書く時の大事な「姿勢」についてお話しします。「姿勢」と書くと具体性が伴わない内容に見えます。確かに、今日お話しする内容は抽象的です。具体性はあまりありません。しかし、小論文の本質論です。本質だからこそ抽象化することでしか語れません。

 小論文は従来の日本の教育から鑑みると特殊なジャンルと言えます。ですので、その本質も特殊な形になります。その複雑性についてお話しします。これをお読

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#80 社会問題としての小論文教育⑨

#80 社会問題としての小論文教育⑨

 今日は小論文を書くときに求められる「言葉のあり方」についてお話しします。ただし、今回お話しするのは適切な言葉遣いや正しい日本語文法という意味ではありません。勿論、文章を執筆する上で、技術としてこれらが大事であることは言うまでもありません。しかし、小論文は技術が高ければ評価されるものではありません。むしろ、ある意味でその逆であることのほうが大事かもしれません。

 不思議なことです。高等学校まで

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#81 社会問題としての小論文教育⑩

#81 社会問題としての小論文教育⑩

 今日は小論文を構成する上での「思考の枠組み」についてお話しします。簡単な言い方をすると「考え方」についてのお話です。

 小論文では書き方についての指導はよくなされます。具体的に言うと「起承転結」や「序論・本論・結論」といった、文章の形式についての話です。これらは一般的に言うところの「構成」に関する話です。論理的な文章にするためには非常に大事な要素です。しかし、これらは小論文に限らず、広く一般

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#82 社会問題としての小論文教育⑪

#82 社会問題としての小論文教育⑪

 今日から8回に分けて小論文指導を巡る「教育現場における社会問題」についてお話ししたいと思います。

 小論文の指導は今や時代の趨勢から大変重要視されています。インプット型の教育からの脱却が少しずつですが、進んでいます。生徒が将来主体的な発信者となれるようにと、アウトプット型の教育の需要が高まっています。しかし、それは「言うは易く行うは難し」なものです。小論文指導には人事的問題・環境的問題・功利

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#83 社会問題としての小論文教育⑫

#83 社会問題としての小論文教育⑫

 今日は学校現場で小論文を指導する上での、思わぬ落とし穴についてお話しします。それは教師の「日本語」についての理解です。

 おそらく読者の皆様の9割以上は日本語を読むことができるし、書くこともできます。それは日本の義務教育のおけげです。しかし、30人近くの子どもたち(1クラスの分の人数)を前にして「お手本」となるような文章は書けるでしょうか? 論理的で適切な日本語というものを800字程度で、ま

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#84 社会問題としての小論文教育⑬

#84 社会問題としての小論文教育⑬

 今日は学校現場における小論文指導の「原理的な困難さ」についてお話しします。それは、具体的に言うと、先生側に原因がある指導の原理的な困難さについての話です。「原理的」という表現には理由があります。それは言い換えれば「構造的」と言ってもいいかもしれません。

 しかし、にもかかわらず、学校現場における小論文の需要は高まっています。原理的に、構造的に指導は困難であるにもかかわらず、指導の需要だけは高

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