見出し画像

#76 社会問題としての小論文教育⑤

 今日は小論文の「評価方法」についてお話しします。最近では予備校や出版社で小論文模試が実施され、そこでは何点といった形で明確に点数化されています。しかし、一方で小論文は偏差値換算されることがありません。
 
 正確に言うと、偏差値では計ることのできない資質(知識・知性・感性)を計ることを目的として導入されているのが小論文です。だから、数値化できないのは当然のことです。小論文の評価は思いのほか難しいものです。小論文模試を実施している予備校や出版社は便宜上数値化しているに過ぎません。
 
 では、小論文の評価とはいかにしてなされているのか。そのことについて今日はお話しします。入試に小論文がある大学はいかなる意図でもって導入しているのか。その点も合わせて説明します。小論文を書くとはどういったことなのか。それを知ると、現在の高校生が向き合っている「知のあり方」が垣間見えてくることでしょう。

(1)評価方法の一例。

 ある難関大学における小論文の採点方法は以下のようなものであるそうです。まずある程度の採点基準や評価ポイントを設定し、複数の人間で1本の小論文を回し読みします。そしてそれぞれ「ランク付け」を行ない、その段階で合否が明確なものは除外します。例えばA・B・Cランクで付けた場合、Aは合格、Cは不合格として決定し除外します。そして残ったもの(Bおよび見解が割れたもの)を再読し審議し、合否を分けていく。
 
 なお読む前にある程度の採点基準や評価ポイントを設定するらしいのですが、毎年採点を行なっている者同士であれば、自ずと「共通認識」ができあがり、「ランク付け」の時点ではほとんど意見の相違はないと言います。

(2)「一般論」として設定できない採点基準や評価ポイント。

 上記した評価方法はあくまでもある難関大学のものです。他の大学でも同じような方法をとっているのかは定かではありません。というよりも、基本的にそれらの詳細いわば採点や評価に関する内訳は公にされません。おそらく出題者(大学)には、それぞれ客観的な採点基準や評価ポイントがあるのでしょう。ただし、それらはそれぞれに正当性を有していても、それぞれに異なるものです。そのため、「一般論」レベルでの採点基準や評価ポイントにはなり得ません。

(3)小論文入試における導入意図のパターン。

 小論文を入試に課している大学には、それぞれに導入している意図があります。それには大きく分けて5パターンあるとされており、以下にそれを紹介します。

(A)優秀人材選抜型
 学力・知性ともに優秀な人材を選び抜くことを目的としています。
 
(B)専門性選抜型
 専門的な知識・知性・感性を有している人材を選び抜くことを目的としています。
 
(C)人間性重視型
 良識を持ち、良好な人間性を有している人材を選び抜くことを目的としています。
 
(D)言語運用能力鑑定型
 学力・知性・専門性がなくとも、大学入学後に課されるレポート等を適切に執筆できる能力を見極めることを目的としています。
 
(E)読み書き能力鑑定型
 大学で学ぶ上での最低限のリテラシー能力の有無を見極めることを目的としています。(最低限のリテラシー能力を有していない人物を振るい落とすことを目的としています。)

 偏差値の高い大学や人気のある大学になるほど(A)のパターンになっている傾向があります。逆を言えば、偏差値が低く人気もなく、いわば定員割れを起こしているような大学では(D)や(E)のパターンとなっています。また学部の特色に適した人材を集めたい場合は(B)や(C)のパターンとなっています。
 
 そのため、一言に小論文と言っても、実は色々な意図や事情が背景にあります。それが近年の小論文入試を複雑化・多様化させている要因の1つとも言えます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 皆様、いかがだったでしょうか。以上が小論文の「評価方法」にまつわるお話です。客観的な採点基準や評価ポイントが存在していたとしても、それが「一般論」レベルで共通認識とならないあたりは、まさに現代社会のあり様そのものと言っても良いのではないでしょうか。現代の高校生は、良くも悪くも複雑で多様な評価にさらされています。裏返して言えば、現代の高校生が持つべき「知のあり方」というのはこのような形です。
 
 次回は小論文を構成する「観点」(いわば材料みたいなもの)についてお話しします。小論文に必要な材料とは何なのか。そういったことについてお話しします。ご興味ございましたら、是非お読み下さい。では、また!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?