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#創作

9月 君が知らない君

10畳の部屋には夕陽の光芒らしき光の筋が映えており、限りなく海に似た青が地面に塗られている。住人の空想が部屋の背景に反映される。9月29日が住む世界は特殊である。愛書を開き静かな時間を過ごそうと思った矢先、コンコンと、ノック音が響く。

「どうぞ」

優しい声色に促されるまま、一人入室した。9月29日とは近しい存在の9月30日だ。

「お邪魔します」
「こんにちは、9月30日」

言わずもがな、9

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目を閉じて耳を澄まして

真夜中
目を閉じて耳を澄ます

不安も浮遊感もそっとして
明鏡止水 今でも遠いけど
心はここに在るから

落ち着いて
今日はゆっくり眠るの

嫌いなものを理解してしまった
夜郎自大 鋭利さ過剰気味の君と僕
紛うことなき青さを思い出して薄ら笑い

記憶に蓋をしていた
言葉を長らく置き去りにした
春の夜の過ごしやすさに傾いて
静かに明日を見つめるの

君は遠い場所へ行って
そうそう会えなくなる
桜舞い

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suit & sweets

suit & sweets

「もう一回言って。聞こえなかった」

秋。付き合いたての彼は少し変わり者だと気付いた。

例えば、私の知識ではうまく言い表せられない、黄色とも橙色とも断定しづらい色のTシャツ。

例えば、私より豊富な種類の香水とbbクリームを知っているところ。

妙なところで彼は個性が突出している。今日も彼の部屋にお邪魔し、奇妙な言葉を耳にした。

「だーから。スーツ姿でオフィス街のスイーツを買うのが趣味なの」

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彼が眠る頃

顔を上げるとPC画面から求職者の顔が消えた。オンライン面接が主流となって求職者は自宅から面接に臨む一方、面接官の僕は変わらずオフィスから向き合う。

世界が変わる前と働き方に差異が生じない苛立ちごと、オフィスビルと最寄り駅の間に位置する喫煙所にて燻らせた。

星が見えない街のホームは数分間隔で電車が訪れる。乗り込み揺られて1度駅を経由する。地方へ続く路線は途中から席が空き、座り込むと静かに眠りにつ

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