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ショートショート|また明日、夜明けに

「おはよう、夜」
「おはよう。今日は早いんだね。⋯⋯元気ないけど、何かあった?」
 いつもは明るくて私に飛びついてくるほど元気なのに、今日の朝は暗い表情をしたまま隣に縮こまるように座った。
「いや⋯⋯、大丈夫だよ。ちょっと体調が悪いのかも」
 そう言って苦笑いを浮かべる朝は今にも泣き出してしまいそうだ。
「そっか、じゃあ今日はちょっとだけ遅く交代しようか」
「うん⋯⋯」
 それから特に会話をすることも無くただただ静かな時間を過ごした。いつもとは違う静かな時間だ。時折朝が何かを話そうと口を開くが、言葉が発せられることは無いまま口を閉じてしまう。朝が悩みを抱えていることは分かっているが、私から無理に聞くことは出来ない。私は待つことしか出来ないんだ。

 もうすぐ私の時間は終わる。夜を長引かせようとしても限界がある。だんだんと空が明るくなり、鳥のさえずりが聞こえ始めてきた。いつもならここで朝と交代しているが、今日はまだできそうにない。相変わらず朝の表情は暗いままだ。
「⋯⋯ねえ、夜。私っていない方がいいのかな」
「⋯⋯どうして?」
 朝の声は震えていた。自分を抱きしめるように膝を抱え、琥珀色の瞳からは大粒の涙が零れ落ちている。
「朝なんて来なければいいって望む人がたくさんいるんだ。夜が明けて欲しくないって」
 私は咽び泣いている朝を抱き寄せた。
「私は朝に会えるの楽しみにしてるんだよ。朝に会えるこの時間が好き」
「でも、みんな私を望んでない」
「そんなことないよ。みんな頑張りすぎてるからちょっと元気がなくて休んでいたいだけ。私の時間は多くの人が休む時間だからね。もっと休んでいたいなって思ってるだけだよ」
「そう、かな」
「そうだよ。それにね、私の時間になると多くの人は心のカーテンを閉めて自分の時間を過ごすから、悩み事とか不安感に襲われる事が多くなる。でも反対に、朝はカーテンを明けて光を取り込む。そしてその光は心に幸せを与えてくれるんだよ」
 朝は涙を拭った。涙のおかげでより一層キラキラと輝くその目からはもう悲しみの雫はこぼれ落ちていない。
「みんなの心のカーテンを明けて幸せにしてあげられる1番最初の時間を作れるのは朝なんだよ。まぁ、朝に眠って夜に起きる人もいるけどね」
「私、みんなのためになれる?」
「うん。なってるよ」
 世界が明るい。どうやらここで交代しなければならないようだ。朝はどこか不安を抱えながらも「よし!」と力強く立ち上がった。いつもよりちょっと遅い始まりの時間だ。
「そろそろ交代しなきゃね。もう大丈夫?」
「大丈夫! 私、頑張れるよ」
「やっぱり朝は元気なのが1番だね。私の時間はたくさん悩みを話していい時間だから、またいつでも話してね」
 頷いた後に見せた笑顔はいつも以上に眩しかった。私は私と対象的な朝の眩しさが羨ましいといつも思っている。

「それじゃあ、私はそろそろ寝ようかな」
「ありがとう。夜。私も夜の優しさが大好きだよ」
「ありがとう」
「うん! ゆっくり休んでね。また明日」
 私の体が光に透ける。目覚めの時間に私は眠り、眠りの時間に私は起きる。毎日繰り返される私たちの日常だ。私はまた大好きな朝に会うために夜を創る。だからそれまでは——。
「おやすみなさい」

また明日。

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