置いていかれた、花火の夜。
今日は隅田川の花火大会だったらしい。
わたしはあいにく仕事だったので、クライマックスの様子だけテレビで見ていた。
隅田川の花火大会には一度だけ行ったことがある。二十歳の夏のことだ。
当時好きだった人にふたりで花火に行こうと誘われた。好きな人と花火に行くことも、東京の花火大会に行くこともはじめてだったわたしは、とても楽しみにしていて。
でも結局、人がたくさんいたので立ち止まってゆっくり見ることはできなかったし、見えてもビルの隙間からたまに花火のかけらが顔を出すくらいで、花火大会を満喫することはできなかったんだっけ。
ただそのときの記憶で、今でも忘れられないのは。
彼が飲んでいたスミノフを手放して、空に向かって何かを叫んでいたこと。
そのあとわたしを振り返り、まっすぐな目で、じっと見つめられたこと。
初めてみる彼の表情にびっくりして、ドキドキして、「どうしたの?」なんて無理して笑ってみせたけれど、彼は「なんでもない」と言ってすぐに話をそらしたこと。
そのあと浅草から上野まで歩いて、上野公園で話し込みすぎてわたしが終電を逃したこと。
さらに彼が「ごめん、まだ待っててほしい」とだけ言って自分だけ実家に帰ってしまったこと。(!)
付き合った後に聞かされたのは、というかそのときすでに想像はついていたのだけれど、彼は本当にシャイな男の子だった。
お酒の力を借りて告白をしようと思ったけれど情けなくてそれもできず、かと言って朝までふたりで過ごすなんてことも恥ずかしくてできなくて(ファミレスでいいから付き合ってほしかったとわたしはその後ずっと愚痴っていた)、まあつまり、四文字の言葉が当てはまる男の子だったのです。
その彼とは一年半ほど付き合って別れてしまったけれど、花火大会、とくに隅田川の花火大会と聞くと、いつも思い出す。
あの頃はお酒を飲んでみたい年頃だったから、ビールやチューハイを持って花火大会を歩いていたな。でも正直いまは麦茶と枝豆で十分だな、あのころは若かったなあとしみじみ、笑ってしまうのだ。
そんな7月27日の夜でした。
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