風に立つ 柚月裕子著
406p 少々分厚い本だが手に取るのに躊躇はなかった。
同じ作者の『盤上の向日葵』の感動を覚えていたからだ。内容も分からぬまま手に取った。
ところで、「補導委託制度」という制度を知ってるだろうか。私は、本書を読むまで知らなかった。この物語は、岩手県盛岡市にある南部鉄器工房『清嘉』に春斗という犯罪を犯した16歳の少年が預けられるところから始まる。
補導委託制度で春斗を受け入れたのは父である。息子の悟は寝耳に水で納得がいかない。自分とろくに話もしない父。それなのに春斗には、優しく接するのである。
この本は親子の物語だ。悟の親子関係、春斗の親子関係をめぐって物語は動き出す。
子どもに自分の願いを押し付けてしまう親。親の気持ちを分かろうとしない子ども。誰もが通る道なのかもしれない。
南部鉄器、チャグギャグ馬コ、ババヘラアイスなど郷土の物が、いいスパイスになりながら基本的には、親子のすれ違いがメインで話は進む。
劇的な展開、どんでん返しなどがあるわけではないが、ページをめくる手は止まらなかった。特に悟に感情移入してしまうのは、自分自身も親の気持ちを理解できない部分があったからだろう。
物語を読み終わった時に、ふっと肩の力が抜けるのを感じた。今まで求めるばかりだったのかもしれない。わかろうとしなかった自分を悟に投影し、悟が一歩踏み出すことで自分も救われたように思う。
親子関係でぎくしゃくしている方は、この物語を読んでみるのもいいかもしれない。
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