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己の欲せざる所 人に施すこと勿れ

1.目指すべき理想の姿

「己の欲せざる所 人に施すこと勿れ」

中国の有名な思想家であり哲学者、孔子の言葉。

私はこれを、小学校1年生のときに担任の先生に習った。

「自分がされて嫌なことは、人にしてはいけません」

当時の朧気な記憶だけど、私はこれを生涯心がけたいと思った。幼いながらも、この言葉は偉大で、理想の人間の姿だと思った。

だからいつも相手の立場を想像して、この場面で私がこう言ったら相手が不快にならないかどうかをいつも考えて生きてきた。


2.目指したばかりに

これが良くなかった。あまりに相手を尊重しすぎて、自分の本当の気持ちを伝えるのが下手になってしまった。

学校生活ではしんどさを感じながらもなんとかやってこれた。学校は結局は成績だ。普段は自分の意見を言えなくても、テストでちゃんと書けていれば問題ない。損することはない。作文とかも文章に自分の思いや意見を載せるのは得意だった。


でも社会に出ると違った。損ばかりするようになった。
こちらが相手を尊重しても、必ずしも相手が自分を尊重してくれるわけじゃない。こちらの配慮を受け取るばかりで、自分は一切相手に配慮しないという人間がごまんといた。

そういう人は、「困った時はお互い様」とか「やってもらったら、自分もやってあげる」とか「give-and-take」とかそういう精神は持ってない。優しくしてもらったらラッキー。それで終わり。今度は自分が助けてあげようとか、恩返ししようとか、ましてや優しさや配慮を返そうとかそういう心は持ってない。「ありがたい」とか「申し訳ない」とかない。というか、その優しさを搾取し続ける。吸い尽くせるだけ吸い尽くす。
そしてそれだけでは飽き足らず、自分がされたら腹を立てるくせに、平気で人が嫌がることを言う。悪気なく言う人もいるし、言ったあとの相手の反応を見ていないから全然気づいていない人もいる。そういう人は自分の発言に疑問を持たない。振り返ることもない。場合によっては、人を傷つけて苦しむ姿を見て喜ぶという鬼畜極まりない人間までいる。そんな人間がわんさかいる。それが社会。

それに気づくのに少し時間がかかってしまった。というか、そういう人種がいるなんて、立派に働いているように見える社会人の中にこんなにいっぱいいるなんて思ってなかった。彼らにとっては、いかに楽をして良い給料をもらうかがすごく重要。そのためなら、平気で人に仕事を押し付けるし、自分が困っているときは大騒ぎして助けてもらう。でも同僚や部下が困っていても知らん顔。「悪いと思わないのか」「大人として恥ずかしくないのか」とよく思いながら観察していたが、どうもそのような感情は一切持ち合わせてないようだ。そんな人が普通に社会人で、普通に親で、普通に上司でっていうのに、正直呆れたというか失望したというか絶望したというか。


3.人生の課題とは。人生の意味とは。

完璧な人間なんてこの世にはいない。当然のこと。私だって決して完璧じゃない、欠陥だらけの人間だ。でもだからこそそれを認めた上で、未熟な自分を認めた上で、理想の人間像を目指して努力するのが人生の課題だと思ってた。最終的にどこまでそこに近づけるか、その努力をすることが人生の意味だとも思ってた。

でもそうじゃない人がたくさんいるというその現実を社会に出てドンと突きつけられて、私はわからなくなってしまった。


4.最低限でいい。大切にしてくれない人には。

そして気がついた。
「己の欲せざる所 人に施すこと勿れ」
素晴らしい言葉。人間のあるべき姿。
でもこれは強くなければ本当の意味では極められない。相手が同じ姿勢でないとしても、相手が自分の優しさを搾取する人間だとしても一貫してこの姿勢を貫き通す強い人間でなければ。

だから、そうでなければ自分を守るために、最低限のラインで実行すればよいと思った。つまり相手が自分を尊重してくれなければ、自分も相手を尊重する必要はない。義理もない。自分を尊重し、大切にしてくれる人にだけ、尊重の心と優しさを贈ればいいのだ。
そうでない人へは、己の欲せざる所をその人に施すことはしないが、必要以上に相手を尊重し優しくする必要はない。
もちろん迷惑をかける人間にはなりたくない。そんなのになったら恥ずかしい人間になるだけ。それは違う。人に迷惑をかけることなく、自分を大切にしてくれる人を大切にしてさえいれば充分なのだ。


5.最後に

それにしても本当のところを言うと、誰もが「己の欲せざる所 人に施すこと勿れ」を実行できていれば、「己の欲せざる所」がズレていることによる若干の傷つけ合いはあったとしても、たぶん世の中もうちょっと上手くいくんだろうになとは思う。傷つく人もこんなに多くならないのにね。残念。

私も強ければ、理想の人間の姿を目指して誰に対してもそうあれるよう努力を重ねたかったのだけれど、現世では簡単ではなさそう。でも私は強くはないけれど、その「理想の姿」を目指して、大切な人に対してはそうあれるようには頑張りたいと思う。

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