【ある話】「ある季節の終わりの話」
「行ってきます」といつものように声をかけて
玄関へ向かった僕の姿に
母親は何か言いたげな顔をしたけれど
それに気づかないフリをして靴を履いた
紆余曲折があってようやく戻ってきた車に乗り込んで
エンジンをかけた
もう何の名残も残っていない助手席に目をやって
溜息を吐きながら思った
「やっぱり、ダメだったな」と
まずは、向かう方向とは違う方向へ車を走らせた
ケーキ屋に入って
洋菓子の詰め合わせを選び、包んでもらった
少し迷ってから、ショートケーキを二つ選んだ
数に意味はなかっ