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『俺の酒が飲めないとでもいいたいのか』昭和酒飲み用語


#ほろ酔い文学

コロナパンデミックの減少を迎えた11月最終金曜日。
久しぶりに、一人で繁華街に繰り出した。
約1年8か月ぶりとなる。
「こんばんは・・・」
街並みの歩道に立った、ケバイ厚化粧をした方々が声をかけてくる。

「お客さん、いい子いますよ。飲んでいきませんか」と強引に腕をつかんだり、いきなり抱き着き交渉は、もう昔の話だ。
客引きも形が変わった。

ふと、客引き集団の肩越しに覚えのある店名の看板が見えた。
『幸運の駅』
なんだっけ?・・・。
なんだったけ?・・・。
有名な北海道・帯広の幸福の駅ではない。
あ、そうか。
思い出した。Instagramでいいね!を熱心に押してくれる店だ。
少し思い出すのに時間がかかった。
「お客様」
「あ、あの店に行く用事があるんで」と客引きの男性の顔も見ず、年季の入った雑居ビルの1階廊下に入っていった。

中に入ってみる。
カウンター越しの厨房の中には、6名の店員がお揃いの店名の入った黒い半袖Tシャツを身にまとい、座敷の客達に、忙しそうに酒や料理を運んでいた。仕切りがあって、見えないのだが8卓あるように感じた。1卓につき、最低でも4名はいた。単純に32名。満員御礼の活気があった。

「カウンターでお願いします」
一人だから、当然だ。
「お通しになります。醤油をすこしかけて召し上がられると美味しいと思います」
クラッカーの上にマグロを小さく刻んだものの小鉢を目にした。
「生ビールください」
「ありがとうございます」

言われるままに、醤油をかけた。
ん?
『九州のあま~い醤油です。おいしいですよ』と醤油瓶に手書きで書かれていた。
(おもしろい・・・)
と思ったのは、その時だけだった。
その小鉢に入ったものを口に入れた。
(辛い・・・)
塩辛い。クラッカー自体の塩と醤油が絡んで辛くなっているんだ。
「生ビールです。あ、お客さん、かけすぎです。一滴でいんですよ」
(早く言えよ)
そんなに醤油をかけたつもりはない。

口直しに、料理を頼もうと思った。
え?
メニューのほとんどがマグロ関連。しかも税抜き980円から3,000円の単品料理ばかりだ。
ジョッキを口につけて、店内の卓上を見渡す。誰も頼んでいないように見えた。
カウンターの3席飛び越えた、ガテン系の若い男性と目が合った。
「驚いたでしょう」
「え?」
「この店、マグロだしているんですよ。この時期に・・・」
(なんだ、そういう事か)
察するべく、この店の常連で、厨房で働いている女子高生と仲良くなろうと思っているあんちゃんが店をアピールしてきた。
「飾りですよ」
「え?」思わず、声がでてしまった。
「高い!と思ったんでしょ・・・」
「いや・・・。あ、まぁ・・・」
「ここに座るお一人様は、メニュー見て驚いて、ジョッキやコップを口につけて店内を見渡して、他の客のテーブルにマグロの料理がどれぐらいあるのか。決まって、そういう動作に入るんですよ。そうでしょ。お客さん」
頭を搔きながら、頷いた。
(最悪だぁ・・・。早く、この店でよう)

『俺の酒が飲めないとはどういうことだっ!』
奥の座敷より、男性の大声が聞こえてきた。
そして、茶碗の割れた音がした。周辺の客が声のする方を見る。が、仕切りがあり見えない。
厨房にいた店長らしき男性が、料理を皿に載せて、他の店員になにやら声がけしてそこへ向かった。客同士が揉めている様だ。

(助かった)

いきなり声をかけてきたあんちゃんも野次馬根性なのか、止めに向かったみたいだ。
時間が止まった。
残りのビールを書き込み、唖然としていた店員に
「おあいそ」を告げた。

外は、益々、冷えてきた。
めんどくさい店だ。二度といかねえよ。
なぜか、慌てふためいたいたのは俺だけかぁ・・・。
ハハハ・・・。
なぜか、笑えた。

『俺の酒が飲めないとはどういうことだっ!』

今もいるんだな・・・。

昭和のコミュニケーションをやってる野郎が・・・。


支払額:生ビール550円。サービス料500円。お通し400円。計1,595円(税込み)
居酒屋でサービス料とるんだよなぁ・・・。どうなってんの?

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