「考えることを止めなさい」〜考えることと考えないことを区別する〜
先日、ハローワークで「働くことを考えるのを辞めなさい」と言われ、福祉の支援を受けるところまで書き記しました。
私が繋がったのは精神障害者の生活訓練施設。立ち位置的には、退院した当事者が社会生活に戻るまでをサポートするスタンスです。そこで私は、ライフスキル=いい感じに生きるための工夫を獲得するために通所し、プログラムを受けていくことになります。
しかし、支援を受ける前に大きな問題が起きました。
それは、私がある単語に触れるとフラッシュバックを起こし、周囲と衝突したり言い合いになったりしてしまうことです。
例えば、公務員のことを批判されると、自分が批判されたような気になり、プログラムの途中にもかかわらず相手を打ち負かすまで徹底的に言い合ってしまうことがしょっちゅうありました。
他にも、家族の話が耳に入ると、目の前が真っ暗になり身動きが取れなくなることもありました。
そうなると、他の利用者と一緒にプログラムに参加することはとても難しくなります。
そこで支援者と面談を重ね、"あること"を試すことにしました。
それは「考えることを絞ること」です。
当時の自分は、全てのことを自分と結び付けて怒りに任せて罵倒してばかりでした。そして怒り散らした後にはぺんぺん草ひとつも生えません。不毛な争いです。しかし、それをせずにはいられませんでした。
全てのことを自分に引き付けて考えることは、ある意味では責任感や正義感があって素晴らしいことだとは思います。けれども、それで日常生活がままならないのでは元も子もありません。
そこで、頭に思い浮かんだ出来事とと、それを考えなければならない時間を使って、考えることと考えないことを絞る作業を始めました。
具体的には次の方法を試しました。
1.小さな箱を3つ用意する
2.それぞれ「2週間以内にすべきこと」「1ヶ月以内にすべきこと」「1ヶ月以上先のこと」と書きます
3.頭に浮かんだ考えを、メモや付箋に書く
4.そのメモや付箋を3つの箱のどれかに入れる
5.1ヶ月以上先(1ヶ月以内)の箱は見えないところに隠して、そのことは頭に思い浮かんでも考えを深めない
6.もし、考えが頭から離れなければ支援員に相談する
「考えを書く」「期限ごとに分ける」「期限が先のことは目のつかないところに隠す」の3つがミソです。
自分が考えることは、「この世界を変えるために〜」「就職するために〜(今は生活再建に専念中)」「職業差別をなくすために〜」と、今すぐにできないことばかり考えては、怒り憎しみエネルギーを無駄遣いしていました。
しかし、それらを1ヶ月以上先のことと区別することで考えるリソースが大きく空きました。
そして目の前のゴミの山や食器の山、食事の問題といった身近な問題に目がむくようになりました。
この時私は、「遠い未来のことに囚われて、なんで身近な問題に気づけなかったんだろう」「大きな問題ばかり考えてるから生活の足元がグラグラしていつまで経っても回復しないんだ」と思うようになりました。
この作業は2年ほど続けました。実際に箱に入れる作業は2年ですが、頭の中では今でも続けています。
これをすることで、優先順位の付け方が上手になりました。自分の考えたいことを考える自分から、今しなければならないことを考えられる自分に変われました。
もちろん、自分の考えたいことをとことん考え抜ける生活は憧れます。
しかし、それで生活がままならないならば、現実での変革の行動もできず、世の中を恨んだまま死んでしまいます。
それだけは避けたかったので、ひたすらに頭に浮かぶ考えを書いては箱に入れる作業を繰り返しました。
こうすることで、少なくとも「考えることを絞れる」ようになり、「悪い考えを辞めること」ができるようになりました。
この変化はとても大きな変化でした。
それまでは、頭の中に渦巻く考えに支配されたような言動を取っていた自分が、頭の中に渦巻く考えを反芻できるようになり、自分にとって損になる言動をとることが格段に少なくなりました。
そして、プログラムに参加出来たり、職員に相談できたり、生活環境が改善したりしました。
人間誰しも、悪い方向に悪い方向に考えがちなものです。
しかし、考えることを辞めること、優先順位を考えることが出来るようになれば、短絡的な考えにならずに済みます。
困窮している方々の相談を受けると、多くは短絡的な考えに陥っており、その思考回路を解きほぐすことから始めることになります。
あなたも1度立ち止まって、自分の中の思考回路を解きほぐしてみませんか?
考えることを辞めてみませんか?