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どうも、NASEF(North America Scholastic Federation/北米教育eスポーツ連盟、以下NASEF)日本本部です。
初めましての方はこちらをご覧ください!

前回の「国内実例に見るeスポーツx教育の本質」を書き終えて、行動規範の部分はもっと掘り下げたいなと感じるところがあったので、今回はeスポーツx教育x行動規範というテーマで書いてみたいと思います。

北米で実際に使われている行動規範

具体的にどんな事をカバーするものなのかを把握するために、まず北米で実際に使用されているNASEFの行動規範(Code of conduct)をざっくりと翻訳し、気になったポイントごとにまとめてみます。
■クラブメンバーの行動規範
   常にポジティブな言葉で話す
   協力的で包摂を重んじた言葉遣いをする
   ユーザー名・ニックネームは慎重に選ぶ
   他者と各自のパーソナルスペース(他人に近付かれると不快に感じる空間)を尊重する
   他者に対する協力的姿勢を言葉と行動で示す
   すべての多様性(ダイバーシティ)を受け入れる
   物理的に手を出さない/暴力で意思表示しない
   自分・他者の個人情報を守る
   他者のため立ち上がることを躊躇しない
   見て、言葉にし、行動に移す
   ヒーローであれ

■NASEFクラブメンバーとして競技に参加する時の行動規範
   フェアプレイをする
   衝突ではなく協力する
   ハック・チートをインストールしない
   バグを用いて試合の有利を狙わない
   賭け試合をしない
   絶対に買収(八百長)しない―勝つなら正しく
   オフライン・オンライン問わずポジティブな言葉遣いをする
   他者を鼓舞する言葉遣いをする(士気を下げる言葉を使わない)
   チームメイト・対戦相手に敬意を払う(所有物にも同様に)
   スタメンから落ちた時間を成長と内省の機会とする


これに加えて、行動規範に異議がある時は「NASEFに直接申し立てることを推奨する」、また、違反が発覚した場合は、「NASEFは関係するデータを精査し、ペナルティを課すことができる」などの決めごとも設定されています。

要約版と完全版、契約書のように明確な定義

この行動規範には短く箇条書きにまとめたもの(要約版)と細則や用語定義を網羅したバージョン(完全版、PDFで公開されている)があり、使い分けられています。この二段構えの構造は自分でやるならぜひ真似したいところです。

「長すぎると読んでもらえないが短すぎると意図が伝わらない問題」は説明書などではクイックスタートガイドと説明書に分けることで解決されていますが、行動規範でも同じアプローチを取るというのはなるほどと思いました。

たとえば「対戦はフェアに行うこと」という要約版の表現は具体的なフェアネスを定義しておらず、ともすれば「書きっぱなし」になると思うのですが、完全版ではそこをフォローするように「NASEFは以下の行いをフェアではないとみなす、1~、2~」のように具体的に列記しています。「グレーゾーンを残し/現実的には順守不可能な成約を設け、現場で空気を読んで運営する」部分がなく、各項目の定義まで参照できる環境は、正しい正しくないの軸を無視しても、生徒たちに優れた環境を提供する上で純粋に「便利」ではないでしょうか。また、遵守しない場合の対処も明示されており、全員が納得した上で運営できることも利点のひとつでしょう。

内容は「当たり前」だが、スポーツマンシップの定義になっている

内容自体は普段から無意識に守れるものばかりですが、だからこそ逸脱する行為は絶対に看過しないという線引きができます。また、行動規範自体がスポーツマンシップの定義のようになっている点も興味深いところです。生徒たちが「自律心」を持ち、感情や欲望をしっかりと律しながら、周囲の仲間や相手を重んじ取り組んでいく力を育むところも、スポーツマンシップと同じだと言えるのではないでしょうか。

勝つために数値を客観的に分析し、結果を精査し、改善する点もeスポーツx教育の強みですが、学生が日々の生活の中で主体性を持って誠意ある行動をする実習になる点もまた、同じくらい重要です。しかしスポーツマンシップはただ活動していれば身につくものではないため、eスポーツ活動を「スポーツマンシップ実習」にするには適切に設計された行動規範とそれが生み出す文化が肝要になってきます。

多様性

「多様性」というキーワードについては以前取り上げたことがあるので、興味のある方はぜひご覧ください(個人的にも思い入れのある記事です)。日本では他人事のように響くかもしれませんが、これは肌の色や性別だけの話だけではありません。多様性を尊重する、ということは乱暴に言い換えれば「誰でもいつでもウェルカム」な環境のことなので、人類の集団ならば必ず考えるべき課題です。

eスポーツは垣根なく取り組めることを大きな特徴としている分野ですから、これが実現できなければ意義がひとつ失われることになってしまいます。

多様性に限った話ではありませんが、eスポーツは新しい分野だからこそ、今からの活動結果が今後の文化・土壌となっていきます。その文化の成り立ちを盆栽の生長にたとえるなら、行動規範は望ましい方向への生長を促す「針金かけ」や「止め」のような存在となるものと言えそうです。手入れしない盆栽が思った形にならなくても当然ですから、厳密な決め事という形を取らないにせよ、何らかのガイドは必要でしょう。

日本の学校向けに作るとしたら?

と、ここまで北米の事例を見てきましたが、こういった事はまるごと輸入できるものではないので、日本の現状や文化差に配慮したものにする必要があるでしょう。

ならば何か良い叩き台はになるものは…と考え、ボーイスカウトはどうだろうと思い当たったので見てみたところ…このページの「おきて」がNASEF北米行動規範とかなり近いことが分かりました。

しかしボーイスカウトは比較的低年齢向けの活動で、この「おきて」も上の例でいうところの「要約版」です。大人に近い言語能力を持つ中・高・大学生には「完全版」を別途用意したほうが、責任や協力といった大人の素養を学ぶ上で有益です。

個人的に、行動規範を定めるにあたっての勘所は「普段なら誰でも守っていること」というラインを超えないことではないかと考えています。また盆栽の例で恐縮ですが、ガッチガチに「針金かけ」しても健やかな環境は生み出せないことは、大人ならば誰でも思い当たるはずです。行動規範とは絶対に外してはいけないことであり、それ以外の部分は「理性的・建設的に議論」できるようにすればよいのではないかと。eスポーツx教育が担うのはそれを可能にする態度や進め方を学ぶ場所づくりのはずですから。

以上を踏まえると、導入するのであればまずNASEF行動規範を叩き台にして大枠を決めてしまい、現在の状態や担当者(顧問)の関与に合わせた細則づくりにしっかり時間をかけるアプローチが良いのではないかと思います。NASEF行動規範は翻訳されていませんが、先の通りPDFが公開されているので、適宜参考にしていただければ幸いです。

おわりに

筆者はこれを書いていて、しっかりした行動規範のもとで活動するということは、建設的・論理的に振る舞う(スポーツマンシップに則った)人間になる練習なのだと気づきました。

ただしどんな集団でも似たような決め事は存在するはずで、校則でも、社則でも、部活動の規則でも大抵は同じようなことが書かれています。ではなぜeスポーツでわざわざこれを?と考えてみると、やはりeスポーツが多くの学生にとって「青春をかけて打ち込む活動」で、日常生活では起こらない感情の起伏が生じるからなのでしょう。

筆者もeスポーツタイトルのランク戦をプレイしていて、自分でも驚くほど感情が揺れることがあります。車は一般道を走っている時よりも高速道路を走っているときのほうが制御が難しいけれど、この感情の揺れ方はそれと似ているな、と。

感情の激しく揺れる環境で克己心を育むことを極限環境で自分自身を運転する技能を磨くことにたとえてみると、行動規範の重要さもひときわ強く感じられます。目の前のことから、やっていきましょう。

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北米教育eスポーツ連盟(略称NASEF)は、教育を受け、想像力に富み共感力のある人材を育て、すべての生徒が社会におけるゲームチェンジャー(改革者)になるための知識やスキルを身に着けるために取り組む教育団体です。