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【140字小説 Ⅹ 5】『瞬間的物語』

《1.記憶》

記憶を浄化できるという男に頼んだ。
「妻の悪い記憶を消してくれ」
頷く男に、俺は大金を支払った。
人生を前に進める為だ。
翌日。外出した妻の帰宅が遅れた。
「病院で変な男に捕まってたの」
鬱の妻はそう言い、久しぶりに本物の笑顔を見せた。出逢った瞬間を想う。

俺は妻の記憶を全て残したい..


《2.Colors》

私は数日前から、人が纏う色が視える様になった。
十人十色。色の意味は判らないけど、色の濃さは心の重さだろうか?
会社の同僚はかなり色が濃い。
気になって休憩中に声を掛けてみた。
同僚は私をじっと見つめている。
「え..なに?」
「いや..心配そうな顔もいいなって」

彼の桜色、また濃くなった。


《3.家族》

限界だ..自由になりたい。
今から、愛する我が妻と子供を消し去る。
日々積もり続けた罪悪感という名の澱が俺の心を限界まで押し潰した。
皆が俺の家族を称賛してくれた日に、この結末は決まっていたのだ。
他人と自分を騙す日常はもう終わる。

【はい、アカウントを削除します】

また一人きり..


《4.強く》

何度も見る夢… 
夢の中、僕は兄と共に暗い場所に閉じ込められて、二人で必死にもがいている。
だが兄は突然、覚悟を決めた様に僕に向かい語りかける。 

『強く生きてね』 

兄弟のいない僕が、初めて母にこの夢の話をした時、母は突然の涙を流して言った。 

「…双子のお兄さんね」 

強く生きる。


《5.予感》

最近、真夜中に目的も無く街を歩き回る人が増えているらしい。僕もそのひとりだ。
現在、深夜2時32分。
近所を歩く途中、何人かと擦れ違った。
全員暗闇の中で笑みを浮かべていた。
勿論、僕もニヤニヤと笑いながら暗闇の中を歩き続けている。
革命が起こる予感を感じているんだ。

この惑星は生まれ変わる..

《終》

サポートされたいなぁ..