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ごえんがありますように。

私は、大学院で
ヒトの感覚に関する研究を行っている。
 
今現在、実験を行っている。
 
実験参加者を集めるのには、苦労する。
 
引退したサークルの同期、後輩に声をかける。
 
「一時間ほど、ご協力お願いできませんか?」
 
有難いことに、みんな快諾してくれる。
 
年の瀬で、忙しいはずなのに
声をかけたひと全員、「いいですよ」と声が返ってきた。
 
 
想定外だった。
ほとんど断られるだろうなと思っていた。
各々研究があり、修論、卒論、発表に追われているのは自分だけではないのだ。
 
 
有難い。
ひとに恵まれてばっかりだ。
 
その人と会う。
 
まず、
「ありがとね」
と協力に感謝する。
 
「久しぶりだね」
と会えずにいた時間を繋ぎなおす。
 
「最近どうよ?」
でまた始める。
 
終わらない。
 
近況を聞く。
 
彼女ができた、
良いところに就職できた、
〇〇できた、
××できた、
できた、できた。
 
できたこと、できることが増えていた。
 
一方、
できそこないの自分。
「最近忙しくて...」
苦労話。
そんなもの、誰も聞きたくないのに。
それしか出てこない。
ごめんね。
 
また、
家でできるから、
大学には月に何回かしか行っていない
という人が結構いた。
私は平日毎日行っているのに、
どうりで、会わないわけだ。
 
卒研の話も聞くと、
「形だけの発表だから」
という人が多い。
 
気づく。
あ、俺のとこ、ハードモードだ。
 
比較。
 
読んできたあまたの本に
「他人と比較するな」と書いてあったのに。
読んだはずなのに。
 
楽だと噂の研究室を選んだやつが、
楽しそうにしている。
人生を謳歌している。
 
私には歌っている暇はない。
リズムめちゃくちゃ。
疲れた顔と声で
協力してくれる友に感謝する。
 
ふらつく足で階段を上り、研究室に向かう。
 
目標人数の半分まで来た。
あれほど協力してもらったのに、
結果は、ほぼ失敗。
苦悩する。
ならば、理由が必要。
論文を書くのだから、
感覚じゃなくて、理で詰める。
 
思い通りにならない。
 
気のせい。
 
人それぞれ。
 
という調べるまでもない結論を書いてしまいたい。
 
あ、そうだ。
昼飯まだだ。
 
生協に向かう。
食堂の営業時間は過ぎていた。
仕方ないから、購買部で何か買おう。
 
「疲労感軽減」と大きく書かれたキレートレモン500mlを買う。
 
実際、疲労感軽減なんていうのは気のせいで
ただただ、甘いだけだった。
 
まだあれもこれもやっていない。
でもあたりは、もううっすら暗くなっている。
研究室に戻る。
 
帰り道。
赤い羽根募金の箱があった。
なんとなく、お賽銭箱に見えたので、
5円玉を投げ込む。
 
「研究が何とかなりますように」
そこに神はいないのに祈りたくなる。
 
祈りじゃなくて、お金を届けるもの。
 
ただ、
 
ご縁がありますように。
 
利益ではない、偶然を欲して。
 
4期 なさのや
 

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