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伝統工芸、竹細工を身にまとい世界最高峰トレイルレース170km完走!

2年半ほど前の話。トレイルランニングにのめり込み、世界最高峰レース(UTMB)にようやくチャレンジ権を得た。日本の工芸品を世界に発信しよう、と日本工芸株式会社の創業し、1年目のタイミング。この両者を絡めた策として、”日本の工芸を身にまといPRしながら170km走ってみよう!”と企画して、完走したお話。

世界最高峰のトレイルレース、UTMBとは?

聞いたこともない人も多いとおもうので、ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)の説明から。毎年8月末ころに開催され、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランを取り巻くフランス、スイス、イタリアにまたがる山岳地帯を走るトレイルランニングの大会。

私が参加したのは以下の日程。

日時:2017年9月1日スタート(レース制限時間46時間半)
距離:170km、累積標高:10000m
開催場所:ヨーロッパ・アルプス山脈最高峰、モンブラン山(4810m)を一周するコース。イタリア・フランスなど3カ国の山々を走り抜ける。

こんな感じ↓

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参加条件:2年以内に3大会で15ポイント以上(ITRA 国際トレイルランニング協会が定めています。すでに変更されていますが、おおよそはこんな感じ)で申し込み権が得られる。

100kmのトレイルレースでざっくり5ポイントくらいだったので、2年間で3本以上必要という感じ。

ただし、あくまで申し込み権で、そこからは抽選。

私は2016年は抽選が外れた。2017年は対象期間にオーストラリア、香港、韓国、国内100kmレースに数本完走していたので申し込みができ、ようやく参加券をゲットできた。


チャレンジ内容”日本の工芸を身にまといPR”

ようやく参加券を得たUTMBを”日本の工芸を身にまとい、PRしながら170km走ってみよう!”と思い立ち、企画実行。

制作・協力:別府竹細工・山下工芸様、真田紐・織元すみや様
走者:松澤斉之(日本工芸株式会社代表)
内容:ラン用リュックに「竹細工(花六つ編み)+真田紐」のカバーを外設しUTMB170kmを完走!


<企画編>どのように企画が進んだか?

2017年2月に竹細工などを扱う株式会社山下工芸(http://www.yamashita-kogei.com)社長、山下様にお時間いただき、設立したばかりの日本工芸株式会社(http://japanesecrafts.co.jp)の説明をさせていただいたのがきっかけ。

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日本工芸株式会社のビジョン「日本の工芸、職人の技と精神性・製法・技法に宿るこだわりやプロセスを理解し、商品流通・教育など通して製品を愛する日本内外の人、世の中に広げていく!」と、事業内容などをひとしきりお話した。

そのうち、席を移し会食となり、ビジネスでの取り組みとは別に2017年の極めて個人的な”チャレンジ”について話が至った。上記の、170kmの山の中を夜通し走り続ける、UTMBについて。このことはなかなか理解いただけないのが通常。

変わり者扱いされるのには慣れてる。が、山下社長とお話が盛り上がり、”ぜひ世界へ工芸発信しようー!”となった。毎回ながら社長のお話は面白いしそして絶対実行していただける、すごいひと。

お酒の力もあり、”花六つ編のカゴを作っていただければ、背負って走る!”と宣言してしまった。”もちろん!必ず!早速企画しよう!”と本当にプロジェクトがスタートしていった。

UTMBのスタートラインに立てるだけでも個人的にはとてもうれしい。およそ3年間のトレーニングでようやくたどりついた憧れの場所だ。そのチャレンジと、自社でのチャレンジをかけあわせて成し遂げたらもっと面白いのではないか!ワクワクしてきたのを覚えている。

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そして企画は実際に動き始めた。

雨天想定での強度、振動、接合面などクリアしなければいけない点が多い。両者の認識はありながら、2ヶ月後、初期案の通り2種類のカゴがオフィスに届いた。

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企画を走らせながら、まさに”走りながら考える”状態だったもっとも大きな課題、それは

「どう背負うか?」

このまままでは、現実的には背負う手段を見出せず改善デザイン案を考える。当社のデザイン面でのアドバイスを頂いているコマンドG長谷川さんと散々議論し3案を出す。

案1は背負子にカゴを取り付ける案。
カゴと背負子との接合面での強度も課題。また全体の重量も不安。
そしてそれにもまして、形状的にラン中に腰にぶつかり続けるというデメリットをぬぐいきれない。。

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案2。工芸は「用の美」。美しくさらに機能を持つもの。
今回の企画では日本の工芸をPRするプロジェクトだが、「用」を横に置き、工芸の「美」の部分を求めてみるという案
リュックを大きくカバーしてデコレーションすれば、目的の半分は果たせる。

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案3。ザルのような形状をドラゴンボールの亀仙人のように背中に貼り付けるような案。この場合でも布リュックに何らかの方法で縫い付ける、などを想定。
これらの接合面が激しいトレイルランに耐えうるかどうかが課題。

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真面目に議論し、実現可能な方法を探る。いろいろ討議し数字を出してみる。
歩幅が仮に1mとした場合、レース中に170,000回、この竹籠が背中を叩く状態になる。

容易に困難が想像できる、現実的ではないだろう。そして、現実的な案2に決定。


<制作編>どうやって制作・検証したのか?

決定後、しばらくして6月末に届いたのが次の写真。ほぼ、図案通りで、花六ツ編の美しさもそのままに完成。

素晴らしい!

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本業の商品選定も兼ねて、7月上旬、職人さんの制作現場にいってみた。
大分県宇佐市安心院の工房。 

製法や工法を散々伺う。結局2時間以上滞在させてもらい、竹を割いてヒゴを作り、編むプロセス、どうして職人さんになったのかなどなど根掘り葉掘り。

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竹選び・素材選びのポイントを伺う。そこで竹選び、制作過程を見せていただいた。そして外側だけを薄いヒゴにしてそれを素材とする。

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編み込むための無数の竹ヒゴをまず用意する。そして、これを編み込んでいく。 気の遠くなる作業工程。

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次の写真は、今回のプロジェクトで活用するカバーと同じ編み方(花六つ編)で完成した品。とてもうつくしい。1日でできる数は数個。
工房から見える見える景色は何とものどかで、小走りして登れそうな山がいくつもあり、なんとも走り出したくなる。。

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工房前の庭にて裸足のまま、工房からおりて遠くの景色を眺めていた。
「いいところですね」と語りかけると「集中して編み続けられる環境ですよ」と。
何も制限がなくてもこの編み込みをずっとやっていたい、とのこと。

すごい集中力。

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帰京後、7月16日長野県で行われるトレイルレースに実装してみる。
44歳最後の日だ。The4100D マウンテントレイルin野沢温泉スタート直前。

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The4100D マウンテントレイルin野沢温泉。最高標高は1600m程度。累積標高4100m。スタートして同じ場所に3回戻るコース設定で計65km。体力的にはさほどの距離強度でもない。

体力的・スキル的な自身の確認とともに、一番気になるのは竹細工カバーの強度。装着感は悪くない。

1ヶ月の本番UTMBはこの条件の約3倍。ここである程度の現実性を確認できないと危ないという危機感。

当日は気温は28度程度。途中何度か雨が降る。スタートから1000mを駆け上がりそして下った25キロ地点の写真。早くも、背負ってテンションがかかる箇所が裂けてきている。そのまま走るが。。

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11時間40分とのんびり長時間でのゴールだったが、右肩の部分の竹細工カバーが裂けて広がっている。

これではまずい!

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このままでは、本番ではプラス100km以上走るレースにはとても耐えられない、この事実をそのまま報告書にまとめ、山下工芸様にお伝えする。

何しろ間に合うように、強度アップバージョンの再制作を依頼。
スケジュール的にかなり無理を言っているのは承知していたが、何しろ祈るような気持ちで待つしかない。

そして、いよいよギリギリ8月中旬、ついに最終バージョンがオフィスに届いた!

ダンボールをあげると、お送りした私物リュック(お決まりのサロモンの)に竹細工カバーが外設されている!

感動!これで走るんだ!

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前回の65kmトレイルの大きな課題点であった上部の裂け目をしっかりと補強いただいている。
透明の釣り糸で縦に見えている。これが上下で一番力のかかる部分2箇所を固定している。

リュックにジョイント4箇所で外設でき、「竹細工カバー」は単独で切り離せる構造。 竹の真ん中は左右の揺れを最小化するために真田紐でくくって頂いた。

砂漠ランナー(トレラン前は砂漠ランにはまり)繋がりで、トレランチームでご一緒させていただいている方に真田紐の老舗「織元すみや」代表をご紹介いただいた。高級ギフト和食器の桐箱の外を締めているのがすみや様の真田紐が多い!

今回、企画趣旨に賛同いただき、当社ロゴの配色に近い色指定の真田紐をご提供いただいた。竹細工と同様、真田紐も日本の優れた工芸のひとつ。ありがたいです。

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これですべての装備がそろった!これで準備完了!

一度、自宅近くを数回、数十キロ背負って走ってみたが違和感はない。

だが、ただこれが170kmの極限状態を耐えうるかどうか。。準備に十分な時間がなく、数日後不安を抱えたまま機内に持ち込み出発。

8月29日、スイスジュネーブ経由でついに憧れの地、フランス・Chamonix到着!

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スタート地点近くのボード。世界各国から集まってくる。
願掛けで”完走!!”と。

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<実装編>レース当日はどうだったか?

スタート10分前。
UTMBスタートのゲートを背景に「これから進むぞ!」という覚悟とともにこの長い距離を背負い、慣れてない竹細工カバーをつけたまま走りきれるかという心許ない状態でスタート。

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レースは厳しい条件をクリアした2500以上が参加し、800人以上がゴールまで辿りつけない過酷なもの。今回は山頂付近2400m地点で氷点下10度近くまでになり雨と雪にも見舞われた。地上では25度近く。この気温差もきつい。

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もちろん体力的な心配もあるが、竹は何のカバーもしていないので容赦なく水を吸い込んでいく。自身の体力も弱っていくので少しずつ重みも感じられる。前回バージョンでは雨の中、20km地点で一部裂けるてしまったので心配しながらラン。

様々な困難はありながら、ようやく150km地点。ここまで35時間以上走り続けてドロドロの足元。ここまでで2晩寝ていない。

だが、竹細工カバーは無事。もうあと少しでゴール!

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前を走る人を追い抜く時や、追い越していく人には気になるようで
「お前の”back”にはなにがついてるんだ?」と何度も聞かれた。

「日本の伝統工芸の竹細工でつくった・・・」と最初のうちは説明していた。

だんだんと体力の低下とともに体力も気力も落ち、ざっくと
"For good fortune"
と説明していくと、 これが理解を促したようだった!

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ゴールまであと2キロ。

ちょうどこの頃、幻覚幻聴の症状が出ててふわふわした感触。究極の眠さ、体力は限界、でもやり遂げたいといった感情とが混在し前へ進む。

ただここまでくれば、もう確実にゴールできるとわかる。しばし休憩し山に向かって余韻にひたる。

44時間以上、2晩を走ってようやく晴れた最後の日。
清々しい!

アレ、アレ!とフランス語での応援していただいている方に撮影依頼。

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ゴールまで200m。

"you are finisher !” 歓声で泣きそうw

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ゴール!

なかなかできないチャレンジを、もうひとつの挑戦とともに実行できたことに嬉しさがこみ上げてきたのを実感している瞬間。

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ゴール後宿に帰り、リュックから外すと。。
走りおえてリュックから取り外すと、形状にそう形に変化していた。 しなやかな竹ならではの風合いが出ている。

45時間の連続走行にも耐えて、雨風・雪に耐え竹細工カバーは無傷!

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旅をともにしてもらった同志。何しろ最後まで帯同してもらった。

距離170km、累積標高10000mに無事ゴールできたのはこのカバーのお守り的な役割があったのかも!感謝!

自分にしかできない挑戦が達成でき、大きな自信になったとともに各所にいろいろとご協力いただいたので一安心。

日本の工芸を背負って走りきることができた!

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日本工芸株式会社代表/SBI大学院大学経営管理研究科講師/中小企業基盤整備機構国際化支援アドバイザー/UTMB、砂漠マラソン250kmなどアドベンチャーレースfinisher/「挑戦する精神とともに成長する」がポリシー。
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