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「応援される人」になれ

 那珂です。

 県大会も終わって、全国大会が近づいてきました。

 引率する予定だった子は、全国大会に駒を進めました。

 今回は、この選手の話を。



 中学校最後の中体連、ここまで来るまで色々あったようで。

 4月、異動して担任したクラスに彼がいました。

「この子、全国大会まで行っちゃうから、引率よろしくね。」何気に言われていた言葉の意味がよく分からず、「そーなんですねー」と、フワッと返事していました。

 トップ選手にある、独特の雰囲気。大人を試すような物言いだったり、やっぱり「一筋縄ではいかない子」だな、というのはすぐにわかりました。

 でも、ここで無理に距離を詰めると、上手くいかない。付かず離れず観察すること2ヶ月。

 私の学校には卓球部がありません。だから、彼は小さい頃からクラブチームで練習をしています。練習が夜遅くまであったり、休日には大会、遠征があり、月曜日はぐったりと居眠りをすることも日常茶飯事。提出物の未提出も多く、先生方からも、「こいつだから、しゃーねーな」と思われるフシもありました。

 でも、それって違うんじゃないかい。

 最初の引率になる市内大会が始まると、確かに強い。けれど、大事なところでミスをする。
 いつもだったら勝てる相手だとコーチは言うのですが、どうも本調子ではない様子。

 個人面談の時、進路先を迷っていると言ってたっけ。


 4歳から始めた卓球、高校で続けるかどうか迷っているって。痛みを抑えながら、プレーすることもあるって。

 それまでの彼は、「卓球がうまくてスゴい子」という特権階級。

 私はそれを今、ここからひっくり返さないといけない、そう思いました。

 特別ではあるけど、特別でない。このさじ加減が難しいのだけれど。


 「常勝のプレイヤーよりも、周りに応援される選手になりなさい。」

 「そのためには、勉強も、学校生活も、努力しなさい。できないんじゃなくて、やらないだけ。その能力を、ちゃんと活かしなさい。」

「先のことは、考えるな。目の前にある勝負を、一つ一つ誠実に積み重ねていけば、自ずと先は見えてくるよ。」

 こんなことを、個人面談で話した記憶があります。


 この時点で、私も、卓球のことは全くの素人でした。

 でも、ここまで言ったんだもの。自分だって、勉強しないと。

 私自身が、卓球のルールブック、トレーニングやストレッチングの本を買い込み、テーピングバッグを用意し、卓球の専門誌やサイトをよく読むようになりました。

 気になった記事や本は、「読んどけよ」と無理やり(?)渡して読んでもらったりもしました。

「わからないことは、聞く。」

 このスタンスで、色々な先生方に尋ねまくり、失敗もしながら、私も何ができるのかを、必死に模索していました。


 そんな日常の中で、少しずつ、彼は変わっていきました。

 本当は、真面目で、几帳面、優しく繊細な子なのかもしれない。そう感じる場面が、見えるようになってきました。

 家でのトレーニングやストレッチング、コンディショニングをするようになったと、コーチからこっそり聞きました。

 授業中も、居眠りすることが減っていきました。


 そして迎えた、県大会。

 引率するはずだった私が行けなくなり、それを伝えると

「全国大会行きを決めてきます。」と言って旅立っていきました。

 試合結果を追う中で、4回戦までは、3−0のストレート勝ちを続けていきましたが、ベスト8が出揃った準々決勝。

 彼がいつも嫌っていたフルセットマッチ。途中で諦めてしまうのか、最終5セットまでもつれる試合は、今まで私は観たことがありませんでした。

 彼は、第5ゲームまで粘り、最後の最後まで競った試合をしたそうです。

 その試合中、他チームの選手たちが彼を次々と応援し始めました。

 彼は、小さい頃から名前を知られている選手でもありますが、そんなふうにして、他チームの多くの人たちから「応援されている」様子は初めてみた、と観戦していた先生から聞きました。

 勝敗よりも、そのことが嬉しくて。

 試合の勝敗だけではなくて、彼がそういう泥臭い試合を最後までやりきったこと、そして周りを巻き込んで、応援してもらえる選手になったということが、何よりも私にとっては、嬉しかったのです。

 バスケットボールのアシスタントコーチをしていた時、「応援されるチーム」と「応援されないチーム」があって、その違いって何なのかを考えてみたのですが、そのチームが、人間的に「愛されている」かどうかなんだな、と気づいたことを思い出しました。

 フルセットマッチの後、いつもは感情を出さない彼に「悔しかった?」と聞いてみました。

 しばらく返事がなくて、数時間後に「悔しかったです」一言返事が。

 この言葉が聞けたから、きっとこの子は大丈夫だ。

 全国大会に行くことに、卓球を続けることに、迷いはないはず。

 彼に初めて「読んどけよ〜」と渡した1冊の本。それが、もしかしたら、彼を成長させるきっかけになったのかもしれません。


 「何で、卓球を続けるか わかんなくなったんですよね。」

 ちょっとふてくされた感じで、言い捨てた彼の面影は、もうそこにはありませんでした。

 自分の卓球が「自分のためだけではない」ことに気づけたこと。自分のプレーが、沢山の人の支えで成り立っていることと、自分のプレーで勇気づけられる人がたくさんいるということに気づくことで、「愛される選手」になれるのだと気づけたのが、彼を大きく成長させたのだと思います。

 全国大会まで、あと2週間。

 最後の大舞台で、自分史上最高のプレーを見せてほしい

 それが、君にとって、これからの道を切り拓く光になる。

 自分自身の手で、その星を、つかみ取れ。


 

 

 

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