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出席簿#07「遠足の朝 止まったフェリー」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

5月6日、月曜日。
連休はいかがお過ごしでしたか?
島根県西部に住んでいる私は、
子どもと神楽を見に行きました。

転勤族で、県西部での勤務は現任校が初めて。
そんな私にとってかなり驚きだったのが、
県西部の神楽文化です。

神事芸能にして、エンタメ要素とサービス精神に満ちた、とても華やかな石見神楽。

小さな子どもたちにとってはヒーローショーのような存在で、客席最前列を子どもたちが陣取っていたり、一緒に踊る子がいたり…。

神楽のことは全くといっていいほど知らなかった私なのですが、今日はたまたま近くにいた小さな女の子が

「次は、『大蛇』じゃないけど、『大蛇』みたいなのだよ」「目が赤いお化けが出てくるよ」

と、一生懸命教えてくれました(初対面です)

ほんと、全世代から愛されているのね、石見神楽。今、とても興味のあることの一つです。

さて、エッセイは先週に続いて離島での遠足の話。
多くの生徒が楽しみにしている学校行事なのですが、その日に限って海が荒れちゃって……⁉?

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「遠足の朝 止まったフェリー」

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外が明るくなる。そろそろ起きないと。反動をつけて身体を起こし、身支度を始める。ジャージに帽子に、タオルと水筒。あれ、町内放送のチャイムが聞こえたような。ちょっと嫌な予感、でも、まさかね。

少し早めに学校へ行くと、職員室に不穏な空気。これは、やっぱり……「内航フェリー、止まるって」。

高校は小さな島に位置している。島同士を行ききする内航船は時化ると運航停止。その日は、遠足だった。

生徒と一緒に2年生になった。去年は高校の近くを歩いたが、上級生は船で他の島に渡る。3年生は予定通り早朝の船で出発済み、1年生は船に乗らない。2年生だけが取り残された。

職員室をのぞく生徒たちは口々に「先生、船が……」。「びっくりしたね、でも大丈夫。心配しないで、予定通り集合場所でね」。電話している学年主任を横目に答える。しばらくして職員室に主任の声が響いた。「タテブネ、取れました」。定期運航の内航船が陸地でいうループバスだとすると、たて船はタクシーにあたる。一度に全員は乗れないけれど、ピストンでなんとか目指す島へ。
 
着いたら班の発表と、目的地決めのくじ引き。ハードなコースにどよめく班も。おまけに時間は当初の予定より短い。ほら、おなかが減る前に頑張って歩こう、海水浴場や山頂で食べるお弁当はきっとおいしいよ。

2時間ほど歩くと海が見えた。生徒たちは砂浜に絵を描いたり、泳いだり。それから各班の「指令」に従って動き出す。「3か所で牛を撮る、だって。まだ1頭しか出会えてない」「お松の碑ってあの鳥居あたりかな。」なかには島在住教職員の協力あって「司書さんの愛犬ってどこ。写真撮らせてくれるかな」。それぞれに写真を撮ったら、また船着き場を目指す。戻ったころにはすでに数班が集まっていた。

帰りの船では、みんなとろとろ眠っていた。アクシデントには見舞われたし、疲れも心配してたけど、翌日の学級日誌には「とっても楽しかった」の文字が躍った。

撮った写真はカレンダーに仕立てるんだそう。自然の強さ大きさを知っている生徒たちは、自然の楽しみ方も知っている。みんなで協力して見つけた景色は、どんな作品になるのだろうか。

(2016/4/27 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

こちらの都合なんてお構いなし、それが自然です。

海がしけるとフェリーは欠航、そんな朝には町内放送が流れます。学校行事のある日の朝は、町内放送のチャイムが鳴ると、全身が耳になったものでした。

さて、島根では隠岐近辺の海上交通手段は主として3種類。大型フェリー、中型の内航フェリー、小型の内航船。

前者の大型フェリーは本土と離島を往き来していますが、後二者は3つの有人離島で構成されている島前地域において、島と島の間を渡す、海上のバス、のようなものです。時刻表があって、それに沿って運行しています。

この遠足の日、止まったのは内航フェリー。小型の内航船は出ていたのですが、それに生徒全員は乗れないし、分乗しようとして他のお客様のご迷惑になってもいけない。(内航フェリーが欠航したため、小型船利用者はいつもより多いはず)

そこで「タテブネ」の出番となった、というわけでした。内航船がバスならば、タテブネはタクシーのような存在です。小型の内航船まで止まるような大時化であればもちろんこの判断にはならなかっただろう、と思います。いろいろな巡り合わせがあってのタテブネ遠足。貴重な体験をさせてもらいました。

ちなみに、タテブネは緊急時だけのものではなく、隣の島で教職員の親睦飲み会をし、タテブネで帰る、ということもあります(内航船の最終便はけっこう早い時間に設定されているので)。船から見上げた夜空には、たくさんの星がきらめいていて、隣にいた先生が「(本島にいる)家族にも見せたいな」ってぽつりとつぶやいたのが印象的でした。

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