堀越直樹

歴史を学ぶことで現在を深く理解し、未来につなげていきたいと日々考えています。 編著『明…

堀越直樹

歴史を学ぶことで現在を深く理解し、未来につなげていきたいと日々考えています。 編著『明治大の日本史』(教学社)、共著『持続可能な学びのデザイン』(清水書院)、解答執筆『全国大学入試問題正解・日本史』(旺文社)、高校教科書『日本史探究』(実教出版)編修協力。

最近の記事

村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』と満洲・モンゴル・シベリア①【高校日本史を学び直しながら文学を読む12】

 今回は村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』を取り上げます。新刊が出ると必ず買ってしまう作家が僕には何人かいるのですが,村上春樹はその中の一人です。書籍化された作品はすべて所持しています。『ねじまき鳥クロニクル』は,いなくなった妻を主人公が取り戻そうとする物語を主軸としつつ,ノモンハン事件などの歴史が交錯していくので, 高校日本史を学びなおしてから読むとさらに面白くなるはずです。まずは満洲事変から日中戦争への流れを理解しなければならないので,長文になることをご容赦ください。  

    • 夏目漱石と日露戦争後のアジア【高校日本史を学び直しながら文学を読む11】

       前回の森鷗外に続き,今回は夏目漱石です。日本を代表する文豪とされる人が続きます。夏目漱石はこれまで様々な角度から研究されていますので,僕の方から新説を出すようなことはできませんが,高校レベルのわかりやすい日本史とともに夏目漱石を読んでいくことには意義があるのではないかと思っています。夏目漱石の小説・評論・随筆・紀行文・書簡などの一部分だけを切り取ると,植民地主義者として描くことも,反戦平和主義者として描くことも可能になってしまうので,我田引水的な切り取り方にならないように気

      • 森鷗外と日清戦争・台湾征服戦争・日露戦争②【高校日本史を学び直しながら文学を読む10】

         前回は日清戦争・台湾征服戦争について扱いましたので、今回は森鷗外と日露戦争です。日露戦争に関する僕の高校日本史の授業の一部を紹介しつつ、森鷗外がどう反応したかを読んでいきます。  1880年代にアフリカ分割を終えていた欧米列強は、日清戦争によって再びアジアに注目するようになります。下関条約が結ばれ,清が遼東半島・台湾・澎湖諸島を日本に割譲することが決定しましたが,ロシアはフランス・ドイツに呼びかけて,日本に対して遼東半島の清への返還を勧告しました(三国干渉)。日本が遼東半

        • 森鷗外と日清戦争・台湾征服戦争・日露戦争①【高校日本史を学び直しながら文学を読む9】

           この時期の日本史を扱う場合、タイトルは「日清・日露戦争」などが多いのではないかと思いますが、あえて僕はそこに「台湾征服戦争」を入れます。台湾征服戦争は、とても重要な歴史だと思うのですが、ほとんど知らないという人も多いのではないでしょうか。その主な原因として、中学・高校の歴史の授業があるのではないかと思います。特に、高校の日本史は、中学の歴史よりはるかに教科書の記述内容が多いにもかかわらず、日清戦争後の台湾の状況を本文で記述せず、注で少し記すだけという教科書会社すらあります。

        村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』と満洲・モンゴル・シベリア①【高校日本史を学び直しながら文学を読む12】

        • 夏目漱石と日露戦争後のアジア【高校日本史を学び直しながら文学を読む11】

        • 森鷗外と日清戦争・台湾征服戦争・日露戦争②【高校日本史を学び直しながら文学を読む10】

        • 森鷗外と日清戦争・台湾征服戦争・日露戦争①【高校日本史を学び直しながら文学を読む9】

          谷崎由依『遠の眠りの』と大正~昭和初期の社会・文化【高校日本史を学び直しながら文学を読む8】

           今回は谷崎由依『遠の眠りの』を取り上げます。谷崎さんは、小説を書いたり、翻訳をしたり、書評を手がけたり、大学で教えたりと多才な人です。文庫化もされた『遠の眠りの』という小説は、大正~昭和戦前期を舞台とするフィクションです。該当する時代の社会や文化に関して高校日本史でどのような内容を扱うのかを紹介しつつ、作品に触れていきます。  日露戦争後に、小学校の就学率が高まり、1911年には約98%に達しました。しかし、この98%という数字は、小学校卒業生の数とは大きく異なります。農

          谷崎由依『遠の眠りの』と大正~昭和初期の社会・文化【高校日本史を学び直しながら文学を読む8】

          村山由佳『風よ あらしよ』と女性解放思想【高校日本史を学び直しながら文学を読む7】

           前回、「北村透谷と自由民権運動」を書いて、次は「森鷗外と日清戦争・台湾征服戦争・日露戦争」「夏目漱石と日露戦争後のアジア」というテーマで取り組んでみようと考えていました。時代順に発表した方が、つながりを理解しやすくてよいかなと思ったのです。しかし、今回はその予定を変更して、「村山由佳『風よ あらしよ』と女性解放思想」にします。映画の公開にあわせた、という理由が大きいです。村山由佳の『風よ あらしよ』は2022年、NHKのBSプレミアムドラマ枠で放送されましたが、映画化が決定

          村山由佳『風よ あらしよ』と女性解放思想【高校日本史を学び直しながら文学を読む7】

          北村透谷と自由民権運動【高校日本史を学び直しながら文学を読む6】

           今回取り上げる北村透谷ですが、名前は聞いたことがあるけど作品は読んだことがないという人が多いかもしれません。しかし、透谷は近代日本文学を語るときに欠かせない人物であり、日本近代史・思想史の分野でも重要な人物です。明治維新の年に生まれ、自由民権運動に傷つき、日本文学に内面化の道を開きつつ、燃え尽きるまで格闘を続けた透谷から学べることは多いはずです。  まず、自由民権運動について高校日本史の講義を紹介し、そのあと北村透谷の作品と人生に触れていきましょう。  1874年、国会の

          北村透谷と自由民権運動【高校日本史を学び直しながら文学を読む6】

          島崎藤村『破戒』と「四民平等」【高校日本史を学び直しながら文学を読む5】

           今回は島崎藤村の『破戒』を取り上げます。被差別部落出身の瀬川丑松を主人公とし、自然主義文学を代表する作品です。これまで3回も映画化されていて、1948年に木下恵介監督、1962年に市川崑監督、そして2022年には前田和男監督(主演は間宮祥太朗)が60年ぶりに映画化しました。  いつもと同じように、理解を深めるための高校日本史の講義を紹介し、そのあと作品そのものに触れる、という流れをとります。  近世社会の身分制をあらわす言葉として「士農工商」という言葉が使われることが多か

          島崎藤村『破戒』と「四民平等」【高校日本史を学び直しながら文学を読む5】

          野田サトル『ゴールデンカムイ』、船戸与一『蝦夷地別件』とアイヌの歴史 【高校日本史を学び直しながら文学を読む4】

           シリーズ名は「高校日本史を学び直しながら文学を読む」ですが、今回は文学に限定せず、漫画も含めて考えていきたいと思います。今回とりあげる『ゴールデンカムイ』は野田サトル原作で、シリーズ累計2700万部を突破した人気漫画であり、アニメ化、実写映画化など勢いがとまりません。高度なエンターテインメント性、効果的な演出力、奇想天外なストーリーなどで多くの人をひきつけているだけでなく、アイヌ文化に関心を持ったり魅力を感じたりする人を増やしたという点においても、画期的な漫画と言えると思い

          野田サトル『ゴールデンカムイ』、船戸与一『蝦夷地別件』とアイヌの歴史 【高校日本史を学び直しながら文学を読む4】

          島崎藤村『夜明け前』と幕末・維新③【高校日本史を学び直しながら文学を読む3】

           対幕府強硬派においては、いまだ朝敵の扱いを受けている長州藩は公然と行動できず、薩摩藩の西郷隆盛・大久保利通らが中心でした。西郷・大久保らは、クーデター方式という、かなり強引な手法を選択します。在京兵力に勝る薩摩藩が、土佐藩・越前藩・尾張藩・安芸藩の同意を得た上で、五藩で御所を封鎖し、徳川慶喜抜きで新政府を発足させるというクーデター案です。公議政体派のキーパーソンであった土佐藩の後藤象二郎が同意した背景には、薩摩藩の在京兵力の圧力も考えられますが、天皇中心の新しい国家体制を創

          島崎藤村『夜明け前』と幕末・維新③【高校日本史を学び直しながら文学を読む3】

          島崎藤村『夜明け前』と幕末・維新②【高校日本史を学び直しながら文学を読む 2】

           幕府が勅許のないまま日米修好通商条約の調印を強行したことに反発した孝明天皇は、1858年、水戸藩に密勅を送り、幕政改革を迫りました。改革案の内容は、現状の問題に対して、多くの大名が集まって話し合っていこうという、連合政権的な路線を示すものでした。朝廷が幕府を介さずに一部の藩と結びついたという事実は、「権威」的存在が「権力」をも高め、幕府に対抗する政治勢力となり得ることを示していました。これは幕藩体制下ではあってはならないことであり、その事実を知った井伊直弼は幕府の政策を批判

          島崎藤村『夜明け前』と幕末・維新②【高校日本史を学び直しながら文学を読む 2】

          島崎藤村『夜明け前』と幕末・維新①【高校日本史を学び直しながら文学を読む 1】

           「木曾路はすべて山の中である」という書き出しではじまる島崎藤村の『夜明け前』は、藤村の実の父である島崎正樹を主人公のモデルとし、中山道の宿場町である木曾の馬籠を舞台にしています。幕末から明治維新期において、主人公の青山半蔵が何を夢見て、その期待がどのように崩れ去っていくのかが描かれています。  『夜明け前』は本格的な歴史小説であり、幕末・維新期の日本史の知識があると深く楽しむことができます。また、『夜明け前』に限らず、幕末・維新期は歴史小説・ドラマ・漫画・アニメ・ゲームなど

          島崎藤村『夜明け前』と幕末・維新①【高校日本史を学び直しながら文学を読む 1】

          【高校日本史を学び直しながら文学を読む】はじめに

           僕は私立の中学・高等学校で社会科教諭として勤務し、主に高等学校の授業を担当してきました。社会科のほとんどの科目を担当した経験がありますが,主に日本史と倫理の授業を担当してきました。現在は高校の「日本史探究」と「歴史総合」という科目を担当しています。  勤務先以外でお仕事をいただくことも増えてきて、大学入試問題の解答・解説、授業実践の発表、大学での講義、社会人向け歴史講座の講師、高校教科書づくりへの参加など、現在多くの経験をさせてもらっています。  「歴史教育」に関わる上

          【高校日本史を学び直しながら文学を読む】はじめに