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【高校日本史を学び直しながら文学を読む】はじめに

 僕は私立の中学・高等学校で社会科教諭として勤務し、主に高等学校の授業を担当してきました。社会科のほとんどの科目を担当した経験がありますが,主に日本史と倫理の授業を担当してきました。現在は高校の「日本史探究」と「歴史総合」という科目を担当しています。
 勤務先以外でお仕事をいただくことも増えてきて、大学入試問題の解答・解説、授業実践の発表、大学での講義、社会人向け歴史講座の講師、高校教科書づくりへの参加など、現在多くの経験をさせてもらっています。
 
 「歴史教育」に関わる上で僕が最も重要だと思っていることは、たくさん本を読むことです。僕は大学では歴史学(日本の近現代史)を専攻しましたが、大学院修士課程では思想史・文化論を専攻しました。それゆえ、日本史の一部と倫理の一部は少しだけ教育を受けたことがあります。しかし、それ以外の分野はあまり詳しくない状態で高校の教壇に立つことになりました。僕だけでなく、日本史全般または世界史全般が専門分野という人は存在しないので、中学・高校の社会科の教師というのは、自分が深く学んでこなかった分野の授業を担当する時間が多くなります。そのため、自分が大学(または大学院)を卒業したときの知識でとまっていては、まともに授業を実施することができません。授業力を向上しようと思ったら、働きながら、時間を見つけて本を読み続け、毎年自分の知識を更新し続ける必要があります。教員の仕事というのは授業以外にもたくさんあるので、「忙しくて本を読む時間がない」と叫びたくなることもありますが、それでも社会科教員のプライドにかけて、なんとか本を読み続けなくてはなりません。読む本は、やはり専門的な歴史研究者が執筆した本が多いです。参考文献をほとんど記していないような歴史系読み物や、インターネット上で見つけてきた歴史系動画などを参考にして授業準備をしたつもりにならないように、と老婆心ながら若手の先生へ伝えるのも自分の仕事だと考えています。
 
 仕事のこともあって歴史の本を読み続けてきた僕ですが、それにより日々の生活の中で楽しい場面が増えていることに気づきました。小説・漫画・アニメ・ドラマ・ゲームなどを楽しむ際も、歴史的なものを題材にしているコンテンツが多く、歴史の予備知識があればあるほど、より楽しめるのです。歴史研究者が執筆した本をたくさん読んできた僕としては、様々な歴史系コンテンツに対して、ついつい時代考証的な観点からツッコミを入れてしまいそうになるのですが、最近はそのような時に自分を客観視する視点を失わないようにしています。僕は「専門知」に敬意を表していますし、明らかな誤情報を正していくことは必要だと感じています。ただし、そのときの姿勢が重要だとも思っています。知識を上から目線で振りかざすような態度になってしまうと、多くの人の反発を招き、歴史嫌いを増やしてしまうでしょう。専門家が執筆した歴史の本を読む人は少ないですが、歴史に関することに興味・関心を持っている人はとても多い、という状況を考えると、双方が上手に歩み寄ることができれば、歴史というのは大変将来性のある注目の分野だと僕は思うのです。このような考え方は「パブリック・ヒストリー」といって、すでに一部の歴史研究者の間でも注目され、研究も進みつつあります。
 
 さて、僕は歴史の本を読み続けてきたと記しましたが、文学・哲学・社会学など様々な分野の本を読むのが好きで、特に文学は10代の頃から続く最大の趣味であり、歴史よりも文学の方が、読んできた本の冊数は圧倒的に多いと言えます。そんな文学好きな僕が歴史を学んできたことで、理解が深まった文学作品が多数あり、名作の再読によって人生がより豊かなものになっています。
 日本文学をはじめとして、高校日本史で学ぶ範囲の知識があるだけで理解が深まるコンテンツが無数にあると感じていますが、残念ながら高校では日本史は必修科目ではなく選択科目なので、日本史という科目を学ぶことなく高校卒業要件をみたすことが可能です。また、新しい学説が定着するなどして教科書の内容が変わることがよくあり、高校で日本史を選択した人でも10年以上前に学んだ人の場合は、かなり教科書の内容が変化しているので、可能であれば少し学び直しの機会があるとよいと思います。

 以上のような経緯で「高校日本史を学び直しながら文学を読む」というシリーズを書き連ねていこうと思っています。とりあえず、近現代の日本文学で以下のようなものを考えています。

 ・島崎藤村『夜明け前』と幕末・維新
 ・島崎藤村『破戒』と「四民平等」
 ・夏目漱石と明治時代
 ・北村透谷と自由民権運動
 ・樋口一葉と明治の社会
 ・永井荷風と大逆事件
 ・芥川龍之介と大正時代
 ・小林多喜二と社会主義
 ・林芙美子と戦前・戦中・戦後
 ・太宰治と戦争
 ・三島由紀夫と戦後の日本
 ・大江健三郎と戦後民主主義
 ・石牟礼道子と高度成長のひずみ
 ・多和田葉子と現代の諸問題
 
 これらを全て扱うかどうかはまだわかりませんし、ここにないものも追加する可能性は高いです。また、ここに記した順番でアップするわけではありませんのでご了承ください。 書き上がり次第、noteにアップしていこうと思いますが、のんびりやっていく予定なので気長にお待ちいただければ幸いです。

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