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テレビ局の進化が、日本を元気にする 1)配信ビジネスを、もう一つの柱にする

以下からの続き

 「シリーズ:テレビ局の進化が、日本を元気にする」、最初のテーマは、トップライン=市場価値を作る。市場価値=売上を作る領域で、今できるプランを説明していきたいと思います。


1)配信ビジネスを、もう一つの柱にする

 なにを当たり前のことを言っているかと思う人も多いかと思いますが、テレビ局の強固なビジネスモデルと、昨今の生活者の変化を理解していただくと、今まさに”柱”というレベルで注力すべき喫緊の課題だということが、理解できると思います。

課題その1:昭和から変わらない2つのモデル

 昭和の時代に確立されたテレビ局のビジネスモデルが強すぎるゆえに、外部環境が大きく変わった現在、その変化に対応することがテレビ局に求められています。では、その強すぎるビジネスモデルの歴史を振り返って、何が進化のヒントにつながるのかを探っていきたいと思います。
 1953年2月にNHKによって日本で始めてのテレビ放送が始まりました。その半年後の8月に日本テレビ放送網が開局して民放テレビ局の歴史が始まります。そして、今のテレビ局の原型を作ったのが、1959年に田中角栄が郵政省時代に導入した県域免許制でした。その制度により、各県一斉にテレビ局が開局しその数38局となりました。その後、1969年、佐賀県にサガテレビが開局することで全都道府県に地上波民放テレビが開局しました(71局)。そして、現在のテレビ媒体を支えている視聴率システム(オンライン・データバンク・サービス)が1981年に正式にスタートします。そのころには、徳島、佐賀を除き各都道府県に2局以上の民放テレビ局が開業しており、現在のテレビ局の系列ネットワークも確立されました。

地上波テレビ局の開局数推移
出典:民放テレビ開局一覧

オンライン・データバンク・サービスが正式にスタート
計画よりやや遅れたものの、1981年1月6日、東京本社5階に設置されたTOSBAC・DP/6が稼働し、オンライン・データバンク・サービスが正式にスタート。当初のサービス内容は関東・関西両地区視聴率の「日報配信」、ビデオリサーチ自主調査8地区(関東、関西、名古屋、北部九州、札幌、仙台、広島、静岡)の「テレビ・スポット効果測定」で、同年春には「テレビ・ラジオ広告統計」「番組評価分析」が加わりました。 

出典:ビデオリサーチ60年の歴史

 その後、県域免許制度に守られ新規参入が制限される中、インターネットが普及するまでは、エンターテインメントや報道などのコンテンツ制作能力と、それを伝える圧倒的な情報伝達力を背景に、その情報伝達力をお金に換えるシンプルな媒体販売メニューによって、テレビ黄金期を早々に迎えます。そして、そこから、2020年代のいままで取引指標となる視聴率データはそのまま、販売メニューも組み合わせこそあれ、バルク売りのスポット販売と番組単体で長期間契約のタイム販売という2種類で商いが行われています。この昭和に確立して、2020年代の今も活用され2兆円弱の市場を作っているビジネスモデルこそが、テレビ局のチカラの源泉でした。

 二つ目のビジネスモデルは、放送の方法。前述でも触れたようにテレビ局は、視聴率を収益の源泉にしています。そのため、視聴率が獲得できる番組をつくることが、テレビ局の至上命題になっています。そのため、テレビ局は毎日のように番組を企画し撮影して放送すること、月間約6000もの番組を放送しています(2023年4月現在、関東エリアでNHK総合、Eテレ、民放5局の計7局が、1か月間に放送する10分以上の番組)。
 そして、その視聴率計測自体が、長きにわたってライブで放送されるものだけを対象にしていたために、テレビ局が提供する番組サービスは、開局以来変わらず、ほとんどの番組が、ライブによるフロー型の番組放送です。2020年に視聴率計測が改訂され録画機器も対象となったり、TVerのような民放各社による同時配信も導入されてはいますが、まだまだ、ほとんどの番組は、放送時間のチャンスを逃すと、二度と視聴できない状態で消費されているのです。ストックされて、視聴率による媒体販売に寄与しない領域を創らないように、フロー型の番組放送というモデルが、テレビ局には定着しているのです。

課題その2:テレビ機器利用時間の低下

 では、そんな強固なビジネスモデルも、年々ほころびを見せてきているのを、利用者、生活者の目線からひも解いてみましょう。まずは、各メディアの接触時間の推移です。2006年に51.3%有ったテレビの利用時間は、2023年には30.5%にまで減っています。1日当たり最大8時間の可処分時間があったとして、テレビの利用時間は4時間から2.4時間、なんと1日1.6時間も利用されなくなってしまったのがわかります。当然、増えているのは携帯/スマホ、タブレット端末と、ポータブルで動画を見ることできるメディアに移行しているのがグラフからも分かります。

メディア総接触時間の構成比 時系列推移(1日あたり・週平均) 出典:メディア環境研究所

課題その3:インターネットの伸長と世代間ギャップ

 そして、もう一つの課題が、世代間ギャップです。テレビのビジネスモデルを動かしている50代以上の人間と現在この変化を積極的に取り入れている世代が急激に分離しているのが以下のグラフからでもわかるかと思います。分岐点は、40代。40代はギリギリせめぎあってはいるのですが、30代より下の世代は、インターネットの利用時間が、テレビのそれを超えています。20代に至っては何とダブルスコアの差がついています。

主要メディアの年代別平均利用時間(平日・2020年度) 
みずほリサーチ&テクノロジーズ コンサルティングレポート

 また、インターネットの先で楽しむコンテンツは、動画系のものが多くを占めているのも、テレビ局にとっては課題です。ちなみに、上下にある調査は、違うパネル調査ですが、ここでもテレビとネットのせめぎあう世代は40代というのも面白いポイントです。

全国メディア意識世論調査・2021
NHK放送文化研究所


対案:ネットへの進出

 当たり前すぎる対案ではありますが、強固なビジネスモデルにより、なかなか変化に踏み切れなかったのがテレビ業界です。インターネットに対応する変化も初期のころから実は顕在化はしていました。2005年、まだまだネット回線も動画に耐えられるレベルではなく、スマートフォンも普及していない中、堀江貴文率いるライブドアによるニッポン放送(≒フジテレビ)買収時に、彼はネットの伸長により既存媒体の減収を見越し、ポートフォリオの一環として、サブスクリプションサービスなどを提言していました。また、テレビ業界自身も2000年代末には、民放キー局による動画配信サービスは出そろい、形としてはインターネットサービスを始めていました。日本テレビなどは、2009年にHuluと提携をして有料サービスを模索していました。

在京キー局5社の主なネット配信サービス
内閣府・規制改革推進会議「投資等WG」説明資料

 しかし、この記事の導入部分でも紹介した以下の広告費の変遷を見てもわかりますが、2010年前後は、テレビの広告費はネットの3倍弱まだまだテレビの一強時代だったため、あくまでもインターネットは補完メディアとして扱われ、権利処理などの工数もあり、業界として本気で踏み込む状況ではなかったのです。

日本の広告費_主要媒体別 出典:「電通日本の広告費」より筆者グラフ化

 そうこうしているうちに、黒船の到来。
2015年09月 Netflix、Amazon Prime Video
2019年11月 Apple TV+
2020年06月 Disney+

 2021年の以下の調査では、SVOD(有料定額動画サービス)の日本における利用者は、4400万人に達している。また、世代における差は顕著で30代以下の世代では、すでに2人1人は利用をしている。

調査レポート 日本の動画配信市場の現状と将来展望
デロイト『Digital Consumer Trends 2021』日本版

 このように、テレビ局はいままでのビジネスモデル中心に番組を作り商売をしているので、生活者が便利なインターネットで動画をみて、その可処分時間は奪われ視聴率は低下し、2020年代のテレビ媒体の低迷へとつながっていきます。
 2010年前後のテレビ局の戦略は、自社で動画プラットフォームを作りテレビ同様オウンドメディアとしてビジネス構築しようとしていましたが、そうこうしているうちに、2020年に入って、戦況は一変してしまいました。
 こうなるとテレビ局は、このテレビ機器の外に広がる動画接点においては、媒体社としてではなく、コンテンツプロバイダとして柱を作ることに動くことが必要となります。コンテンツ=番組制作に軸足を置き、グローバルにも展開可能な配信プラットフォームとのビジネスの比重を増やしていくことで、日本の広告市場だけでなく、世界のコンテンツ市場を対象に、収益モデルの多角化が図れるのです。

 この発想で先行している良事例としては、TBSがある。TBSは、2021年発表した中期経営計画で同種の取り組みを掲げており、その取り組みがここ最近芽吹き始めている。

TBSグループ VISION2030 (2021年5月14日)

 本稿を書いている時期(2023年)で言えば、NetflixとTBS傘下の制作会社により制作されたNetflixシリーズ『離婚しようよ』などは、配信直後から好評を博しています。

~佐々木社長は通常は地上波テレビの視聴率動向から話をするところで「離婚しようよ」について言及。同作先月22日からネットフリックスにて全世界配信をスタートした話題作だが、「先月26日から今月2日までネットフリックスの週間ランキングで国内テレビで1位になりました。香港や台湾などで大変な人気を呼んでおりまして、非英語圏のグローバルテレビというジャンルで、10位になりました」と好調ぶりをアピールした。~

出典:スポニチ

利点:収益モデルの多角化 

 これまで、弊社は収益モデルを国内の媒体販売に限定して展開してきましたが、現在、そのモデル自体が疲弊していることをご理解いただけたかと思います。したがって、コンテンツプロバイダとして、視点を変えることによって収益モデルの多角化が可能です。テレビはオワコンと揶揄されていますが、今現在でも瞬時にリーチできる媒体はインターネットでも存在しません。この特徴を活かしながら、新たな領域への橋渡しとして利用する時期に来ています。インターネットの広大な世界に埋もれているコンテンツはたくさんありますが、テレビ局はそれをまず知らしめることが容易かつ手軽に実現できます。その後、コンテンツを育てる事業に積極的に取り組むことができるのです。海外市場も同様であり、IPビジネスとして上流から下流までを網羅し、ビジネスを構築することも容易に想像できます。
 配信ビジネスを柱にすることで、テレビ局は自ら制限していた領域から新たな柱を拡大しつつ作ることが可能です。次章では、その柱にまつわる具体的なプランについても触れたいと思います。

以下へ、つづく

更新:2023年08月01日 グラフ誤植修正

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