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第18号(2024年1月30日)2018年から準備されていたウクライナ軍の軍事的成功(12月期)

皆さんこんにちは。温暖化進行中とはいえいよいよ寒さが厳しくなって参りましたが、いかがお過ごしでしょうか。今号は2023年12月期の話題と論文をご紹介します。



ロシアの対ドローン塹壕vsウクライナのFPVドローン攻撃

概要
Rob LeeSamuel Bendettがそれぞれ12月10日に投稿。記事本文Lee氏

Bendett氏

要旨
 
ウクライナのFPVドローンがロシア軍塹壕に攻撃を仕掛ける様子が記録されている。ここで注目したいのが、ロシア軍の塹壕に設置されたフレームだ。掩蔽には厳しいが、こうすることで塹壕を横切る兵士や装備の動きを隠すことができると見込まれたのだろう。しかしながら努力空しくドローンは塹壕に突っ込んでいった。

コメント
 ロシア軍は目の錯覚を利用して掩蔽しようとしたのでしょうか?確かに塹壕のすべてを覆ってしまえば進軍に支障が出るため、あのような形で少しでも上空のドローンから見えづらくしたいという考えからの策だったのだと思います。個人的には結構ナイスアイデアな感じがしましたが、植生のないところでは厳しいですね。
 しかしながらドローンに対して、少ない装備の中あの手この手で対抗しようとするロシア軍の姿勢は見習う所もあるかと思います。皆さんだったら、塹壕の機能を損なわずにどのように対抗策を考えますか?(以上S)

米国防次官が強調するカウンタードローンの必要性

概要
The Defense News が12月4日に発表( 記事本文
原題 "Counter-drone tech need like that of 155mm shells: Pentagon’s LaPlante"

要旨
 
アメリカ国防総省における装備品の調達担当であるビル・ラプランテ国防次官は、カウンタードローンの必要性はウクライナやガザでの紛争で必要とされている155mm砲弾と同様であると述べた。先日開催されたレーガン国防フォーラムにおいて、ラプランテ次官は「カウンタードローンの生産は屋根を突き破って行わなければならない」と指摘し、カウンタードローンの増産の必要性を強調した。
 次官曰く、自身を含めた国防総省の職員は、徘徊型弾薬やカウンタードローン能力を持つシステムを製造する企業に電話をかけているとのことだ。そうした企業との会談において、次官らは155mm砲弾の生産量変化のグラフをみせながら「最大どれくらいのシステムを生産可能か、そのためには何が必要か?」と質問をするようだ。
 国防総省は必要となるカウンタードローンシステムの数をまだ評価していないが、ラプランテ次官は数千基になると予想している。彼はドローンやカウンタードローン能力の限界は産業基盤のせいではなく、国防総省側が今まで要求してこなかったことによるものだと述べ、産業基盤の強化を訴えている。

コメント
 
記事にもあるように、ガザでの紛争に伴い中東に配備されているアメリカ軍は、ドローンによる攻撃を多数受けている。そうした実戦経験のあるアメリカだからこそ、カウンタードローンシステムに対する必要性が真剣に検討されるのだろう。ドローンが数百機単位で戦域に投入され、消耗されていく時代にあってはカウンタードローンも大量配備する必要がある。そうなると高価なレーザーや電子戦装置だけに、頼るわけにはいかなくなり、安価で大量生産可能なカウンタードローンシステム(例えば30mm砲のような実弾兵器)が求められる。攻撃だけでなく、防御の面においても「質より量(ある程度の質は担保しつつ)」の時代に突入した。ラプランテ次官の危機感は他山の石とすべきである。(以上NK)

 防衛産業において、政府からの需要表明は投資根拠になる重要なものです。日本でも防衛予算の大幅増加を受けて 三菱電機 などが大型増資を行うことが発表されました。日本と異なりドローン産業基盤がそこそこ発展している米国において、カウンターUASの成果が得られないことを完全に国防総省側の責任にするのは無理がありますが、今後の民間企業の動きの活発化は期待できるでしょう。個人的には「安価で大量に、そこそこの性能を」という最近のトレンドを軍事技術大国である米国が踏襲するのか(というか、できるのか?)に興味があります。南米でも不穏な動きがある中で、更に難しいかじ取りを迫られている米国は、どのような判断をするのでしょうか。
(以上S)

同盟国よ、無人機を活用せよ!米国からの要望

概要
Defense One に12月5日掲載(記事本文
原題 ”Use more drones, US tells allies, partners”

要旨
 米国防総省においてインド太平洋安全保障問題担当トップを務めるエリー・ラトナー国防次官補は、インド太平洋における各国と低コスト無人システムを海洋における状況認識等の分野で活用することについて話し合ってきたと述べ、米国は同盟国やパートナー諸国に対して、より多くの無人機を使用するように求めていると語った。
 また国防次官補は、同盟国やパートナーにとって自分の領域における状況認識を高めることは、大きなメリットがあり、水面下も含めて無人システムはその目的のためには、不可欠であると指摘している。
 国防総省の中でも、国防イノベーションユニット(DIU)が、インド太平洋におけるドローンの利用を同盟国に働きかけてきている。

コメント
 米国が同盟国に対してドローンを活用するように求めてきたのはあまり驚くべきことではない。おそらく米国は同盟国との間でcapability gapが発生するのを懸念しているのではないだろうか。米国が無人機を活用する中、同盟国が有人アセットが中心となれば共同作戦を進めていく中で障害になることは想像に固くない。コソボ紛争での空爆のように、米国一国で全ての作戦を実行できるなら、深刻な問題にはならないが、将来生起するであろう戦争においては米国一国で全てができるとは考えにくい。同盟国との共同作戦は不可避である。米国と同レベルとはいかないまでも、共同作戦を行う上で能力差はできるだけ埋めておきたい。同盟維持のためにも無人機が重要である。(以上NK)

 あまり多くが語られておらず、どのようなドローンを運用させてどんな統連合作戦を繰り広げたいのか明らかではありませんが、パートナー国には相応の能力をもって欲しいという米国の強い意思を感じます。あまりにも装備品に差がありすぎると一緒に戦いたくても厳しいことは、先日の NHKの番組 でも報じられたところです。
 一つ懸念されるのは、広い太平洋上で果たしてどのようなアセットが必要になるのか?という点です。この記事では「安価な」とされていますが、「安価な」タイプのドローンが太平洋上でどの程度活動できるのかというと、残念ながら期待されるような姿はあまり想像できません。偵察は範囲がかなり絞られますし、局所的な目標の撃破は今存在しているタイプのドローンでも可能だと思いますが、駆動時間や通信範囲の問題が発生します。こうなるとマシンスペックの問題になってしまいますので、空で言えばMALE機のような比較的大型の物…となりますが、「高価な」ものになってしまいます。
 米軍でも「安価な」無人機を使いこなすにはまだ時間が必要だと思います。形になっていないソリューションを見つけて、地域でシェアするというのは報じられているような鶴の一声では厳しいと思います。一方、小型ドローンの使用方法は多種多様です。将来的に要望に応じ得る小型ドローンの開発を後押しする意味でも、多国籍演習でアイデアソン的なことをやるのもいいかもしれませんね。(以上S)

自律型兵器を配備することが道徳的である理由

概要
Atlantic Council が11月2日投稿( 記事本文
原題:"Autonomous weapons are the moral choice"

要旨
 殺傷能力を持つ自律型兵器システム(LAWS)に対しては、その使用を不道徳だとする主張が強い。そうした人々は①LAWSはキルチェーンから人間を排除し説明責任を果たせない、②人間の尊厳を損害すると主張する。
 しかし①LAWSの使用は通常兵器のそれと同じように説明責任が果たされうる、②歴史上人間のミスや偏見によって攻撃がなされたこと、人間の決断によって無差別殺戮を行う兵器が使用されたことは枚挙にいとまがないことを踏まえるとこうした主張には説得力がない。アメリカ国防総省も国防総省令3000.09にてLAWSの使用を許可しているが、LAWSを配備する緊急性を確立できておらず、そうすることが倫理的に急務であることにも触れていない。
 そもそも完全自律型兵器は既にアメリカを始めとした各国は数十年にも渡り使用している。魚雷、対艦巡航ミサイル、そして地雷といった兵器が該当する。
 筆者は、今までのLAWSを巡る議論は、アメリカが過去行ってきた対テロ戦争における標的殺害といったシチュエーションを想定しているが、戦争の様相が変化し、その前提が崩れていることを指摘する。
 ウクライナにおいては、ウクライナ・ロシア双方が一度に数百機のドローンを使用し、ドローンの使用は益々増え続けている。ドローン対策として電子戦が注目され、ロシアの電子戦に対してウクライナは戦術と技術を組み合わせて対応している、電子戦に対する対策の論理的帰結は、ドローンに完全な自律性を持たせることだ。

 LAWSの倫理性を巡る議論は過去に焦点が当てられているが、自律型兵器が多数使用される未来に焦点があてられるべきだ。そこで問われるべき問いは戦争の目的を達成しながら、人々を守るにはどうすればいいかという問いである。そして、その答えはウクライナが示すように自律型兵器の採用である。

コメント
 
自律型兵器に反対する議論は戦争そのものに反対なのか、自律型兵器に反対なのかが渾然一体としていると思っていたが今回の記事はそこをまさに指摘している。反対派が言うように砲弾で相手を殺傷するのと、自律型兵器で相手を殺傷することの間に差はあるのか疑問符が付く。
 記事では、対テロ戦争において発生したようなドローンによる標的殺害ではなく、数百機のドローンが双方飛ばしあう状況になっているという戦争の様相の変化を前提に置くべきとの指摘は興味深い。電子戦があるからこそ自律型兵器が重要な解となるという議論は以前にも聞いたことがある。やはり自律化は不可避なのだろう。(以上NK)

 自律型兵器を「使う」「使わない」は運用する人間の選択に拠るところですから、この米国防総省の考え方は一理あると考えます。私も概ね同じ考え方で、行動に移す最終決定者が人間である以上、ほかの兵器と明確な区分は不可能であり、自律型兵器自体が使用されることは已む無しと考えています。
 ただ懸念していることが2点あります。①自律型兵器同士の戦いは戦争目的の達成に繋がらないため、国力等に差がみられない場合又は他国の支援等により軍事力を維持できる場合は、戦争が泥沼化・消耗戦化する。②原爆のようにコントロール不能なレベルで一般国民の巻き添えが発生する兵器や、埋設地雷/不発弾のように戦後の国民生活に影響する使用方法には従来通り規制が必要で、現在のような条約非加盟国がやりたい放題出来てしまう状況にはルールを設け、守らせる≒国連のガバナンス強化が急務にもかかわらず、そのような動きは実現しそうにない、というところです。
 ①については、結局物量だけで押しても相手の意志を挫くには不十分だろうということです。更に言えば、ややラディカルな考え方ですが…自律型兵器が拡散すれば戦争のコストが大きくなり、武力的解決が国家にとって有力な手段から外れる、外交や経済政策がより重要な手段となってくる…ということも考えられます。更にラディカルな考えになると、核兵器などの大量破壊兵器で一挙解決短期決戦!というふざけた手を打とうとする国家の存在が現実化する可能性もあり、により厳しいコストを賦課する考え方も必要でしょう。
 ②については正直高い金を各国から巻き上げておいて機能していない国連安保理なんかは解体してしまえと思っていますが、非常任理事国が積極的に発議している所に期待したいです。ドローンの普及やデジタル民生技術の普及によって無意識の総力戦となりつつある現代戦ですが、それでも無辜の民が生まれた国ガチャの犠牲になるのは局限すべきだと思います。
 ややイデオロギー的な話になりますが、そもそも国家間で持つ権利が違うって、どうなの?西側諸国が推している民主主義の考え方どこ行った?!と感じているところです。こんな状況なら世界がアナーキーどころか群雄割拠化するのも当然で、日本も名誉ある立場を望むのであれば、右往左往している場合ではないでしょう。 (以上S)

ウクライナは一日にしてならず―2018年のウクライナ軍の取組み―

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