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落ちくぼんだ世界の入口。

海外の童話・シンデレラに出てくるシンデレラは、cinders(灰)+Ella(人の名前)で、「灰かぶり」という意味らしい。

日本の古典・『落窪物語』に出てくる落窪姫は、落ちくぼんだ所にいる姫という意味らしい。まんまか。

『落窪物語』は、日本版シンデレラとも言われたりする。
ぼく的には、シンデレラというよりも少々ドロみづいた昼ドラのの世界だ。

あらすじをこざっぱり書くとこうだ。

ある貴族の娘、継母(ままはは)とその娘たちに陰湿ないじめを受ける。
床の落ちくぼんだ狭い部屋に住まわされ、「落窪姫」と呼ばれた。

落窪姫を慕って仕える女性、とある男性(「右近の少将」)を紹介。
右近の少将、落窪姫に惚れる。二人は仲を深めてゆく。

ところが落窪姫と右近の少将の仲を知った継母、仲を引き裂こうと落窪姫にエロい爺(60歳・無職・居候・そしてエロのコンボ)をあてがおうとする。
※落窪姫が身分の良い右近の少将と結婚されると都合悪いため。

が、間一髪、落窪姫は右近の少将(と仕える女性)に助けられる。

右近の少将、継母たちにえげつない復讐をする。
継母、車から転げ落ち「なんでこんな目に…(涙目)」

なんやかんやあったけど、みんなハッピーになる

※もう少し詳しくという方はこちら↓あたりが楽しく読めます。

平安時代に書かれたこの『落窪物語』を、『新・落窪物語 舞え舞え蝸牛(かたつむり)』として現代語訳をされた、田辺聖子さんが亡くなった。

ぼくが初めて読んだのは、15歳・高校1年生のちょうど今ぐらいの季節。(四半世紀近く前か…泣きそう)

週7で剣道部やりながら週2で通い始めた予備校で、古文の先生がいわゆる"古文常識"に親しんでほしいと紹介してくれた。

先生の解説(右近の少将の復讐のくだりだった)がおもしろくて、その日の帰りに本屋で買って帰って、翌日には一気に読んだ。

この時から、古文が一番すきな科目になった。
この時から大学入試を終えるまで、古文が一番トクイな科目になった。

点数がとれるから面白かった、じゃなく、面白かったから点がとれた。

古文の何がおもしろかったんだろう。

ふだん使わないことばを見ること、
読んでその響きを感じること、
文法というパズルが解けると、ごほうびみたいに古典の世界の光景が頭の中にひろがっていく感覚。

たぶん、そんな風にしてちがう世界を思い描くのが楽しかったんだ。

それから、
自分が普段つかわない、一部意味もわからない言葉をつかってて、
自分と違う常識の中で生きていた人達が、時に自分たちと同じように感じたりしてる不思議さも魅力だった。
よく「古文の世界の人たちと現代語で会話できるのかな」とか、ひそかに思ってた。

最近、この感覚と似たようなことがあった。
青年海外協力隊でアフリカにいた時だ。

自分が普段つかわない、一部意味もわからない言葉をつかってて、
自分と違う常識にの中で生きている人達が、時に自分たちと同じように感じたりしてる不思議さとおもしろさがあった。
言葉も外見もだいぶ違うけど、楽しかったら笑う、音楽が流れると体が動く、困ってたら助ける、泣く、怒る、なんだ一緒じゃん とひそかに思ってた。


おなじ場所のちがう時間で広がる世界と、おなじ時間のちがう場所で広がる世界と。

古文なんか社会で使わない、いらないと言う話をどこかで耳にする。

実際つかわないけど、広がりゆく世界の入口は、ある人には数学であり、ある人は古文であり、ある人にとっては学校外のことであったりする。

ぼくが新しい世界を知る楽しさを感じた一つは、間違いなく古文・そしてこの『落窪物語』『舞え舞え蝸牛(かたつむり)』だった。

田辺聖子さん、ありがとう。
ご冥福をお祈りします。

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