抹茶ミルク【エミール・ゾラ短編「ナンタス」】
ゾラの「ナンタス」という短編が好きだ。
単純な物語。
田舎ものの男が、出世して権力を手にしていく。
美しい妻を手に入れるが、世間体のため。
互いに干渉しないことを誓い合う。
何年も、何十年も時が流れ、男は地位も金も権力も、なにもかも手にした。
はずだった。
彼は拳銃を持ち上げた。すばらしい朝だった。大きく開いた窓からは、太陽の光が差し込み、屋根裏部屋に若々しい息吹をもたらしていた。遠くでは、バリがその巨大都市の活動を開始しようとしていた。ナンタスは銃口をこめかみに当てた。
なんて素晴らしい朝だろう。
朝の死は美しい。夜明けと死。陰と陽。
人は愚かだと思う。
自分たちの欲しいものは、良いモノと便利さだと錯覚し、必死にそれらを求める。
だけど、本当に欲しいものは手に入らないから、いつまでも求める。
そういえば太宰治の、好きな言葉がある。
![](https://assets.st-note.com/img/1684488366532-Gpmp1I96G6.jpg?width=800)
わたしは何が欲しいのか分からず、いつだって本に答えを求めた気がする。いまだってそうだけど。
フラヴィさえ理解してくれたら、自分はどんな大きなことでもできるのに! 首に抱きつき、「あなたが好きよ!」と言ってくれたら、そんな日が来たら、世界を持ち上げる梃子を見つけたも同然なのに。
世界を持ち上げる梃子はお金で買えないらしい。
一緒に探せる人がいたのなら、それはもう見つかっているのだ。
【余談日記】
真冬か、というくらい寒い。
医薬品の翻訳に触れていると頻繁に「授乳中」とか「授乳婦等への投与」とかいう言葉が出てくるのだけど、その度に三島由紀夫の『金閣寺』序盤で美しい女が南禅寺で茶に母乳を入れているシーンを思い出してしまう。
『金閣寺』をはじめて読んだとき、この描写が衝撃的すぎてネットでディグったら" 抹茶ミルクの誕生秘話" とか囃されていてなるほどなぁ、と思った。
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