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理解ある彼くんと、共喰いの晩餐

「痩せなくても大丈夫だよ、お肉可愛いし」

「君ってさ、カニバリズムが出てくる本を読んで、法律とか倫理とか全部取っ払った真っ白な状態だったら、人肉について興味あるって言ってたよね」

「知識欲的な好奇心の部分としてね、儀式的な部分とか、興味深いじゃん。本当に俺らができるものではないし、本当にできないからこそ魅力にうつる原理とか、語弊があるといけないから改めて言うけど本当にするわけじゃないよ」

「当たり前に知ってるよそんなこと、小説に感化されたんでしょ。宇宙だって昔は行けなかったのに、今となっては現実が目の前に来ていてつまらない夢となったから、手の届かないところにある夢みたいなものが面白いんでしょ」

「そうそう、そんな感じ」

「私いいこと考えたんだけどさ、君が私のお肉を食べたいんでしょ?だから食べることができます!私が死ねます!win-winだと思うんだよね、お互いの欲求満たしているじゃん、すごくない?」

「きみがトカゲの尻尾が生えてくるように再生するなら喜んでするんだけどなあ、だってきみは人間だから本当に死んじゃうでしょ」

「つまんないなあ、お互いの欲求満たせるんだよ、最上な快楽だと思うんだけど」

「捕まるでしょう、夫が妻を殺害するなんて観客が黙ってられないコンテンツと化すよね」

「確かに好きそうだね、妻の肉が食べたくてと供述するのダサすぎだし、でも小説みたいにキャッチーな見出しで週刊誌は売れそう」

「そうだよ、結局みんなコンテンツとして消費されてしまうんだから、辞めとこうね」

「でさ、図書館から借りてきたこの本なに?猟師について?やっぱり私のこと解体するつもりなんだよね?」

「タイミング悪いなあ、違うよ、君の悪い癖だ」

「今やったら、確実に証拠資料として提出されそうだね」

「だから、しないって」

「win-winじゃん」

「いや、捕まる時点できみが死ぬ時点でwinの部分が逆転するからね」

「win-loseじゃただの試合だなあ、そういえば、君って海外かどっかでトカゲ食べてたよね」

「イモリだったかなカエルだったかな」

「実質食べてるよね、じゃあお肉「うるさいなあ、トカゲになれたら考えてもいいよ」

私の理解ある彼くんは、やれやれと話を閉じて「猟師体験どこかでできないかな」と端末で検索をし始めた。人生に呆れたと心はなに一つ変わらないのに、人生を手放させてくれそうにない。胸を満たさずに不幸の残響を聴いたまま生きれたのに、どうしてこうも食べ残しを未来の希望と変換するのだろう、幸福を聴かないまま終焉出来たじゃない

*理解ある彼くん=物語に乗じてくれる人間

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