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『定点観測 新型コロナウイルスと私たちの社会-忘却させない。風化させない。-2020年前半』、第17章「共感の種を育てるために-コロナ禍で孤立する難民と仮放免の人々」 安田菜津紀【読書感想文#2】

こんにちは!
私たちBONDは入管問題に取り組む団体です。今回の記事は「BOND×読書感想文」企画の第2弾となります。前回に引き続き入管問題に関する書籍を紹介していきます!(#1をまだ読んでいない方はこちらも合わせてご覧ください!)


今回、#2として紹介するのはこちらです!

『定点観測新型コロナウイルスと私たちの社会  -忘却させない。風化させない。-2020年前半』、第17章「共感の種を育てるために-コロナ禍で孤立する難民と仮放免の人々」 著:安田菜津紀

感想文の書き手は、BOND学生メンバーのHさんです。ぜひ最後までお楽しみください~

はじめに 

 UNHCRの発表によると、現在、世界人口の1%、100人に1人が故郷を追われています。ですが、現在新型コロナの影響で、自国から逃れようとする人が「難民にさえなれない状況」に置かれています。「難民にさえなれない状況」とはどういうことでしょうか。難民になれなかった人々は、どのような運命を辿るのでしょうか。この章は、“コロナ禍の閉鎖された世界”という視点から、日本および世界の難民問題について述べています。

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要約

 この本は、本書の著者でフォトジャーナリストの安田菜津紀さんが、シリア難民の家族から「この世界に、私たちの居場所なんてどこにもない」という言葉を受け取る場面から始まります。この家族は、身の安全を守るために自国から逃れてきたものの、避難先の街がロックダウンされたことにより、不安定な生活を強いられます。このように、難民であることと新型コロナの感染拡大が重なると、難民は大きな困難に突き当たり、命を繋ぐことすら難しくなります。一方日本では、新型コロナ拡大前から難民問題への取り組みは消極的で、難民にとっては別の意味で高い壁があったと安田さんは話します。

感想 

 安田さんは本章の中で、今世界で一番深刻な難民問題は、各国の国境が閉ざされ、「難民にさえなれない状況」が続いていることだと述べています。私は、安田さんの”新型コロナの場合、人々が移動しないことで命が守れるが、戦争や迫害はそこから移動しなければ守れない命がある”という言葉にハッとさせられました。この本を読む前は、次々と国々がロックダウンしていく様子をニュースで見ても、経済に大きな影響があることを心配するばかりで、閉ざされた国境という壁に移動を阻まれることで消えてしまう命があるとは想像もしませんでした。自分自身もロックダウンを経験したため、この文章は遠い存在に感じていた難民について改めて考えるきっかけになりました。

 また、安田さんは「日本では新型コロナ蔓延前から、難民に対して事実上の”鎖国状態”が続いてきたのです」と続けます。 私は今まで、命からがら逃げてきた難民が難民にすらなれない現状は、コロナ禍で日本も国境を閉じているからだと考えていました。コロナのせいで壁ができた、コロナのせいで難民の仕事が奪われたのだと。ですが、思い返してみると、コロナウイルス感染拡大前から難民申請者は、自身が難民であること立証することの困難さや、入管の排他的な構造など、様々な高い壁に突き当たってきた事実があります。そのため、庇護を求めて来日した難民の人権を侵害する壁は、”新型コロナのせいではなく日本社会が作り上げたものなのだ”、という考えに変わりました。また、コロナ禍で難民に対する対応が各国で大きく異なることを知りました。日本では、入管での収容は解く一方で、従来どおり就労の権利は与えず、かつ特別定額給付金受給の対象外にする、いわば「排斥」の対策を取りました。それに対し、ポーランドでは難民申請者と申請に対応するスタッフ両方の命を守るために、一律で期限付きの市民権を付与したそうです。これによって、申請者の人権が保障され、就労の権利や医療を受ける権利が得られたそうです。また、難民は、就労権がないために感染リスクの高い場所で働いたり、感染しても医療費を払えないために病院に行かなかったりすることもあるそうです。この政策では、難民だけでなくそのような難民に対応するスタッフの安全も守られています。私自身、日本の政策しか知らなかったため、人権の中でも特に外国人の人権の問題に関して、外国人排他的で非人道的な価値観に囚われてしまい、それが正しい価値観だとだと錯覚してしまうことがありました。今回それを改めて実感し、日本だけに視野が狭まることを恐ろしく思いました。

 安田さんはコロナ禍に入ってから、「新型コロナウイルスによって制限された生活をしたことで、はじめて避難生活をしている人たちの大変さに気づくことができた」という声をかけられたそうです。そして「今問われているのは、この小さな共感の種をどう育てていくのか、ではないでしょうか」という言葉で文章を締めています。私はこの問いに対して、共感を共感で終わらせずに、地球に生きる市民同士として助け合う意識を持つことが、せっかく持てた共感を育てる第一歩になるのではないかと考えます。難民問題の解決には多くの人が共感することが必要だと思います。ですが、共感をするためには、ニュースなどから得られる情報の一面を鵜呑みするのではなく、日本における難民受け入れの歴史や現状の問題点を知り、理解を深める必要があります。また、この小さな共感の種を育てていく方法も十人十色だと思います。だからこそ、『共感』という気持ちを持てたからには、助け合いの意識を持ち、自分なりの方法で自分のできる行動をしていきたいと、この本を読んで思いました。

終わりに

 現在、世界人口の1%、つまり100人に1人が故郷を追われています。最近では、ロシアによるウクライナ侵攻によって多くの市民が隣国に難民として逃れています。コロナ禍での制限により隔離された世界を生きたことで、難民として他国に逃れて避難生活をしている人々の苦しみに共感できる人は、確実に増えたと思います。この本は、このような人々に「共感」するきっかけになる本です。私は、この本を通して世界の難民の現状に目を向け、日本の難民受け入れの壁を知ったことで、日本にいる難民および仮放免者に対する見方が180度変わりました。また、日本政府の方針は絶対に正しいことだと考えてしまっていた自分がいることに気がつき、自分で学び考えることの必要性も感じました。ぜひ皆さんも一度自分の先入観を疑ってみるきっかけとして、この本を手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

 どうだったでしょうか?気になった方は、ぜひ『定点観測新型コロナウイルスと私たちの社会  -忘却させない。風化させない。-2020年前半』、第17章「共感の種を育てるために-コロナ禍で孤立する難民と仮放免の人々」(著:安田菜津紀)を手に取ってみてください。

次回の投稿もお楽しみに~


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