冬の奥秩父の山で、テントの周りを誰かが歩いてる話
怖さ:★★★
先日、キャンプ場での不思議な話の動画を見た私の弟が、「そういえば……」と教えてくれました。彼が大学生の時、山登りを少しかじっていたころに体験した話です。
弟は大学1年生の時、夏休みのアルバイトで貯めたお金で1人用のテントを買いました。
テントを使ってみたかったことと、達成感を味わいたいとの想いから、1人で奥秩父の山々を縦走(ひとつの山に登ったら、下山しないでそのまま尾根伝いに複数の山を登ること)することにしました。
奥秩父は東京都の西端、奥多摩から山梨県の塩山付近に位置しています。
彼は奥多摩からバスに乗り、雲取山に登りました。そして尾根沿いの山小屋近くにテントを張っては、朝になるとまたひたすら歩くことを繰り返していました。
3日目くらいのこと。昼過ぎから雪がちらちら降ってきました。ある山小屋に着いたので、そこにテントを張ることにしました。この時期の山小屋は無人(冬はマイナーな山小屋は閉まっていて、山小屋の中には泊まれないみたいです)で、登山者は弟のほか、誰もいませんでした。
テントを張り、食事をし、疲れていたので早めに寝袋に入りました。
ふと夜中に足音で目を覚ましました(はっきり覚えてないけど、「たぶん夜の10時くらいだったんじゃないかなあ~」ということです)。時折風でバサバサッとテントが煽られる音に混じって、ギュッ、ギュッと雪を踏みしめる音が聞こえるのです。
ギュッ、ギュッ、ギュッと、その足音はだんだんと彼のテントに近づいてきます。
「誰か登山者が来たのかな」と思っていたら、やがて足音は大きくなり、彼のテントの周りをぐるぐると歩きはじめました。
もう遅いからこの山小屋の近くにテントを張るつもりなのだろうけど、「少しは離れたところに張ってくれないかなあ。あまり近いと気になって眠れないし、迷惑だなあ」と思ったそうです。
しばらくすると足音は聞こえなくなりました。
後から来た人も落ち着いたようだし、尿意ももよおしたためテントを開けて外へ出ると、雪はすでにやんでいました。辺りを見回すとテントは弟のテント、一張りだけでした。
もう夜遅いのに、さっきの人はまだ歩くつもりなの?と半分呆れましたが、ふと足元を見て、足跡がどこにも無いことに気が付きました。
あれだけテントの近くを歩いていたはずなのに、足音が来た方向にも、テントの周りにも足跡はひとつもなく、きれいに雪が積もったままでした。
霊感とか全然ないけど、「あーこれが霊なんだな」と納得したそうです。
今から20年以上も前の話です。弟が山に登っていたのは知っていましたが、まさかそんな体験をしていたなんて、全く知りませんでした。
話を聞いてみて、怖い話もすごく面白かったですが、怖い体験をしても、下山しないでそのまま予定通り縦走登山を続けたと聞き、さらに驚きました。自分だったらそんな山にいるのは怖くてできません(これまでの人生で、登山をしようと思ったこともありませんが……)。
ちなみに本人は「霊感とか全然ない」と言っていますが、以前、家の中で白い人を見た話をしてくれています。
話し手:弟
採取時期:2020年12月
採取場所:LINEにて
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