塩

1,500件以上の葬儀を担当した葬儀屋さんが、お清めの塩に救われた話

怖さ:★★★ 

10年以上葬儀社で勤めていた方に聞いたお話です。

今は転職されていますが、葬儀社時代には合計で1,500件以上のお葬式に関わってきたという彼の話は、聞くだけで驚いてしまうようなことがたくさんあります。

例えば、事故や自死など、損傷の激しい遺体を現場で保護(?このような表現が適切なのか、わかりませんが、お話を聞いているとほかに適切な表現が見つからなかったので……)したり、何気なく目に入った遺書に「恨」という字がびっしり書き連ねてあったり、壮絶な経験が豊富です。

しかし、こうした数々の経験を経ても、怖いと感じたことはなく、また幽霊とかお化けという類は一切、信じなかったし、今も信じていないと断言しています。

ところが、そんな彼でも、1,500件の葬儀のうち1回だけ、ぞっとすることがあったそうです。

それは、彼が葬儀社で働くようになって、ようやく葬儀の責任者を任されるようになったころ。ある小さなお子さんのお葬式を受け持った時の、お通夜での出来事です。

その日は、葬儀式場のメンテナンスの日で、葬儀会館のすべての電球を新しいものに取り換えました。電球の古い、新しいによって明かりにムラができることを避けるため、毎月1回、一斉に真新しい電球に換えていたのだそうです。

ところが、お通夜が始まると、式場の電球がひとつだけ、チカチカと明滅しています。電球は取り換えたばかりなので、もしかしたら接触が悪いのかもしれないと、その時は思っていました。そして、お通夜が無事に終わり、遺族や参列者は皆、通夜振る舞いの席に移動しました。

葬儀の施行責任者だった彼は、通夜振る舞いの会場を見たり、式場の様子を確認したり、翌日のお葬式の準備をしたりと、忙しく働いていました。

気が付くと、式場に故人のお母さんが居ました。かけてあげられる言葉もなく、そっとしておこうと式場を出ようとすると、そのお母さんが「葬儀社さん、曲、換えました?」と尋ねてきました。

お通夜の始まる前、彼はそのお母さんから、お子さんが好きだったアーティストのCDを預かっていて、「5曲目が好きだったので、ずっとこの曲だけをリピートしてください」と頼まれていました。式の後、故人のためにずっと指定された曲を流していたのですが、その時式場に流れている曲が、指定していた曲ではないというのです。

悲しんでいる遺族に対して大変なミスをしてしまったと、彼は、急いで音響室に飛び込みました。機材を確認すると、5曲目をリピートしていたはずなのに、なぜか7曲目になっていました。

慌てて5曲目に直して、音響室を出ました。この日、音響室のカギは葬儀責任者の彼がずっと持っていて、お通夜の間もその後も、彼のほかは誰も音響室に入っていません。

「おかしいな?」と思いながらも、スペアキーもあるので、事務室に行き「(スペアキーを使って)誰か音響室に入った?」と一応、確認しましたが、誰も入った人はいません。

原因がわからないまま、彼は式場に戻り、7曲目になっていたことを伝え、お詫びをしました。すると、お母さんが「(お子さんが)7曲目も、好きだったんですよね」と、つぶやくようにおっしゃいました。それを聞いて、全身鳥肌が立ったそうです。

ところが、話はそれだけでは終わりませんでした。

通夜振る舞いも終わって事務室に戻ると、彼は急に両肩と腰に、重い痛みを感じて歩くのも大変な状態になりました。そんな彼の様子を見たベテランの女性スタッフに、突然「外に出なさい」と外に連れ出されました。そして、肩と腰に塩を擦り付けるようにかけてもらうと、さっきまでの痛みが一瞬で消えて、嘘みたいに体が軽くなりました。

「それまで、お清めの塩なんて使ったことなかったし、使う人なんているのかな?って思ってたけど、あの時は『塩ってすげー!!』って、本当に感動しました」

そう話す彼ですが、その後も何件ものお葬式を施行しながら、お清めの塩を使うことはないそうです。

ただ、感情の込め方というか、故人や遺族に対する接し方は意識して、あまり深く入り込まないように気を付けるようになったそうです。

話し手:30代 男性
採取時期:2019年12月
採取場所:東京都内

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